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 燃えたとき、しまった、と荼毘は思った。次の日起こることが全て予想できたからだ。やめてときつく言われていて、別にそれを守るつもりはなかったが口うるさくなるのは勘弁してほしくて、だから気をつけていたつもりだった。つもりだっただけで、今なまえの勝負下着が、荼毘の手の中でプスプスと音を立てている。荼毘は、部屋の中が焦げ臭くなる前に窓を開けた。なまえに不思議そうな目を向けられたが、何か言われる前にキスをして丸めこむ。燃えた下着はベッドの下に突っ込んでおいた。

「荼毘!!!」

 翌朝、なまえの、耳をつんざくようなデカい声。もちろん予想はできていたし、原因が自分なのも荼毘は分かっていたが、いざやられるとため息が出た。なまえがドスドスと音を立てながら台所にいる荼毘のところに歩いてくる。オーバーサイズのパーカーは、なまえの尻まできちんと隠してくれていた。その手には台所にふさわしくない焦げた物がある。埃がついていた。

「パンツ燃やした上にベッドの下に隠すなんて最低! すぐバレることをなんでするの? 昨日窓開けたのも焦げ臭いの隠すためでしょ! 変だと思った。これで何枚目? 本当そういうところが嫌」
「うるせえ」
「うるさくさせてるのは誰よ」
「ほら煮物」
「むぐ……、……あっ、うま〜い」

 キャンキャン喚く口に煮物を押し込むことで黙らせる。なまえは、荼毘のこれこれこういうところが嫌だとしばしば口にするが、荼毘はなまえの、簡単に機嫌が治るバカなところが好きだった。
 手の中のパンツを取ってゴミ箱に捨てる。これで何枚目だったか、荼毘は思い出せない。ダサいと分かっていても、なまえを抱くとなるとどうしても“燃えて”しまう。燃やしてもいいように適当なパンツを履けと言ったことはあるが、「嫌だ。燃やす荼毘が悪い」となまえがしっかりと拒否したのは荼毘の記憶に新しい。
 「やっぱりわたしの煮物は最高だ」とすぐなまえは笑顔になるが、それも一瞬だった。

「お鍋から直接食べるのはやめて」

 母親かよ、というありがちな言葉は出なかった。そういうものはとうの昔に捨てたくせに、なまえのことは手放せない自分に、荼毘は気づいていたし、無視をしているからだ。
 返事せずに顔を近づけるが、なまえはそれを両手でガードした。

「なんだよ」
「煮物味のキスは嫌」
「……お前本当嫌、嫌ばっかりだな」
「だって嫌なんだもん。ねえ、朝ごはん食べよう? 鮭買ってあるよ、荼毘焼いてよ」
「んなことしねえよバカ」
「焼いてくれたらパンツ燃やしたの許してあげる」

 結局鮭は荼毘が、自分の炎で焼いた。なまえは荼毘の炎を見るのが好きで、事あるごとに見たがる。人を殺す炎ではなく、チロチロというか細いものしか見たことがないからだと、荼毘は思っている。大きな炎をなまえに見せるような予定は今のところない。
 煮物はきちんと皿にうつし、米は残ってなかったから新しく炊いた。なまえとの朝は、いつも健康的だ。そのあと二人はしっかり歯磨きを済ませたが、まだどこか遠くで鮭の味が残っている、とキスをせがんだ荼毘は思った。小さな体を抱きしめて、その背中をなぞると、なまえは怒った顔をして離れようとする。

「今日はもうしない! 午後から出かける」
「どこに」
「パンツ買いに」
「……」
「自分で蒔いた種だよ。文句言われる筋合いはないから」

 それを言われてしまうと、もう何も言えない。なまえが荼毘を睨んだので、腕を離した。
 結局荼毘はなまえに触れなかった。姿見の前で服を決め、すこし濃い目の化粧を施すのを見ているだけ。洗面所から戻ってきたなまえの髪は綺麗にまとまっていた。もう行く、と玄関に消えていったのを見つめる。靴箱から靴を出したり引っ込めたりする音を聞いていた。

「荼毘〜、こっち来て」

 さっきは不機嫌そうな声だったのに、急に明るく自分を呼ぶから調子が狂う。荼毘が玄関に向かうと、なまえはにこにことわざとらしい笑顔を浮かべていた。

「いってらっしゃいのチューして?」

 アイシャドウが濃いのに唇に色がない理由はこれだったらしい。厚底でいつもより上がった目線も、玄関と三和土の高低差があれば意味はない。荼毘の返事は聞かず、なまえは背伸びした。荼毘も屈んでやった。昨夜とも、先程の歯磨き後のものとも違う、合わせるだけの静かなキスだった。なまえの唇はすぐに離れ、玄関に置いている鏡に向かいすぐに赤く染まった。「鍵はきちんと閉めといてね。いってきまあす」そのまま一人残されてしまった荼毘の心臓は、らしくもなく騒いでいる。






191102 リクエスト(荼毘といちゃいちゃする)