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 お酒くさい。苦手なにおいで、思わず顔をしかめた。視界の端には甲板にころがる仲間たち。全員眠っている。いくら停泊してる島が無人だからって、こんなに警戒しないなんてこと、あっていいのだろうか。それを叱る人が酔ってるんだから、いいんだろうな。
 今日は、わたしたちの船長の、誕生日だ。

「船長、部屋に戻ろう。歩くの手伝うから」
「船長じゃねェだろうが」

 誕生日だからと羽目をはずしてしまったのだろうか。顔にはあまり出ないが、船長はべろべろに酔っていた。毎年、船長の誕生日だけは全員で祝っていて、パーティーのようなことをやっている。わたしたちが一人残らず、船長のことを大好きだからだ。満更でもなさそうな船長を見れるのは、一年の中でも今日だけ。大事な日だった。
 でも、誕生日パワーがあったとしても、こんなに飲むこと、これまであったかな。ずっとグラスを持って飲んで、飲み終わったらわたしに注ぐように言って。このままでは永遠に飲んでしまう、と思って止めたら、怒られた。そうして無理やり合わされた視線の向こう、すこし濡れたような瞳は、おれは今酔ってますと言っている。

「……ロー。もう眠いでしょ、行こう」
「キスしろ」
「は!?」

 なにを、と言い返すまえにべろりと下唇を舐められ、動けなくなる。手にあったグラスはいつのまにか消えて、わたしの背中に回っていた。ローの唇が頬にうつる。やさしいそれに、お腹の底がぞわっとしたがあわてて振り切り、顔をガードした。

「だっ、駄目!」
「プレゼント」
「もう渡した……お酒はわたしから。ぜひうれしい顔して飲んで」
「ひとつってルールはねェだろ」
「ないけど……だってそのまま続きするもん、この流れ」
「おれは今日誕生日だ」
「知ってる、でも約束破られるのは嫌」

 誕生日だからといって、これだけは絶対に譲れない。ひるむつもりもないとひとり気合を入れたけど、別に無理強いはされなかった。ローがそのままずるずると座り込んだので、わたしも引っ張られて座った。

「約束は、守る。それで別れるとか言い出されたら、困るからな……」

 もうこの言葉だけでめちゃくちゃに酔っていることがわかる。胸がいっぱいになった。困るって、なに。困ること、あるんだ。

「キスだけ」

 拒めない。顔に熱が集まる。ほんとはキスだけでも、したくない。ここ甲板なのに。みんな寝てるけど、絶対じゃないのに。とろけた金色から目をそらせない。まずい、泣きそうだ。
 約束は守ると言われ、これ以上はないことを知ったから、さっきみたいに駄目とは言えなかった。それをローもわかっているのだ。きっと今のわたし、だらしない顔をしている。長い指が自分の唇をトントン叩いて、キスを促してくる。するりと反対で首筋を撫でられ、それでようやく観念したわたしは自分のを押しつけた。

「ん」
「……もういい?」
「あと一回」
「誕生日だからやってるんだよ。明日からはしない」
「部屋ならするだろ」

 あと一回どころか何度も何度も繰り返されている。わざと音を立てたり、舐めたり。やりたい放題で、もういいでしょうと言いたいのに言わせてくれない。無理に押し返さないわたしもわたしだ。
 最後、わたしの両頬に手を添え、丁寧に押し当てられた。こんなのは物語のキスだ。けっこう恥ずかしいことをしてるのに、この人は明日、これを覚えてるんだろうか。いや、どっちでもいいんだろうな。だからやってるんだ。いつもこの人はそうだった。ローは満足そうに笑っているから、それがかわいくてわたしも笑ってしまう。

「寝る」
「うん」
「おめでとうは?」
「……誕生日、おめでとう。大好き」
「おれも」




191005