×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

!本編より何年も前




「トリックオア……うわあ」
「……」
「シュシュでポニーテールしてる……の、カワイイデスネ」
「棒読み」
「へへへ、ごめんなさい。先生のクラスの人にされたの? よく見たらチークしてる」
「そういうことだ」
「お菓子用意してなかったの?」

 放課後、探していた黒いシルエットをようやく見つけたので小走りで行くと、そこそこデコレーションされた後の先生がいた。
 少し前に、お菓子もらいに行くって予告してたのに。いたずらされたあとの愉快な格好の先生はいかにもハロウィン楽しんでますな雰囲気だけど、お菓子は期待はできなさそうで勝手にため息をつく。わたしのを押し付けて帰ろう。

「してる。一個」
「一個って……もうあって無いようなもんじゃん」
「あげるやつ決めてるからな」
「マイク先生?」
「なわけないだろ、いちいち用意しない」
「じゃあ校長先生」

 そうじゃないと言って先生はポケットに手を突っ込んだ。出てきたのはのど飴の袋で、そのポケットって結構大きかったのか、と今考えなくてもいいことを思う。
 それをわたしに向かって差し出した。

「なに?」
「もらいに来たんだろ?」
「えっ、わたし!? これわたしに?」
「他に誰がいるんだ。事前に来たくらいだから、欲しかったんだろ。ほらあれ言え」
「あれってなに……、あっトリックオアトリート……」
「はい、どうぞ」

 用意してくれてたの? 確かに言ったけど、これはわたしにだけってこと? あげる人決めてるって言ってたし……。

「ありがと……」
「俺にはないのか」
「ある……、でも先生も言わなきゃあげない」
「トリックオアトリート」
「素直……はい、お菓子です」

 鞄に入れていたチョコレートの箱を渡す。受け取った先生を見て、お菓子の箱、似合わないなあと失礼なことを思った。

「どうも。もう帰るのか?」
「うん、先生が最後」
「気を付けて帰れ」
「はあい。さようなら」

 タイミングはあったのに、わたしだけ特別? とは聞けなかった。もらいに行くとは言った。でもそのときの先生は話半分って感じだったから、わたしもわたしで期待は半分だった。いや特別とかそういうのじゃあないか。予告があったから用意してただけ。それだけ。
 手を振って先生は去っていった。レモン味の黄色いパッケージはどう見てもお菓子ではない。でも、嬉しい。顔が熱い。体の全部が熱い。馬鹿みたい。目の奥が痛い気がする。早く帰ろう。




201031