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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -

 起こさなければ、とぼんやり目を開けるとなまえは隣にいなかった。珍しいことではあるが別に驚きはしない。準備が長いから予定のある休日は早めに起きるということ知っている。ぬくい布団の中、伸びをしながら携帯を見ると時計はデカデカと十三時を示していた。

「は!?」

 勢いよく起き上がるとなまえがベッドの下でうつ伏せになっているのが見えた。
 完全に寝過ぎた。今日のメインである映画はとうに上映開始時間を過ぎている。なんなら終わりの時間も過ぎている。何もかもがもうすでに終わっていた。

「なまえ……!」
「……」
「……寝てるのか」

 床で寝ているなまえの顔をよく見ると化粧は済んでいて、髪の毛もいつもと違う。胸が痛んだ。大きく息を吐いて、乱れたスカートを戻し布団を一度折ってからかけておく。
 やってしまった。手で顔を覆う。なまえがそういう人間なのを知っているはずなのに。寝かせてやりたい気持ちもあるがそうはいかない。ベッドから降りてなまえを揺さぶると、うう、と低く呻いた。

「なまえ……」
「……んん〜〜」
「寝かせてくれたのか」
「……いま何時」
「一時」
「寝すぎた……、でも化粧したままだ」

 何と言っていいのかわからなかった。起き上がったなまえは目をこすろうとして、やめる。

「悪い……」
「うん? いや大丈夫だよ。あっ逆に気使わせた?」
「いや……、……助かった。ありがとう」
「それならいいよ、映画は一人でも行けるし。期間限定のお店だったら起こしてたかもしれないけど……お店も一人で行けるか。でも本当に気にしないで!」

 どんどん気分が落ちていくのがわかる。埋め合わせを提案してもなまえがそれを受け入れてくれるのかわからない。提案したところで今日の予定が俺のせいで流れた事実は変わらない。
 なまえは眉を下げながら俺の顔を覗き込んだ。

「先生、気にしてる?」
「かなりしてる」
「わたしは大丈夫だよ?」
「俺が大丈夫じゃない」
「……ごめんなさい」
「なまえが謝ることじゃないだろう」
「……」
「…………」
「……じゃあ、次会うとき髭剃ってきて」
「はあ?」
「最近剃ったとこ見てないから」
「……」
「だめ? ちくちくしないの好き。あと若く見えるし、いつもかっこいいけど髭ないのも好きだから、見たいなあ〜〜……」

 なにが“じゃあ”なのかよくわからない。わからないが、それはそれとして断れるわけがなかった。それに俺のほうが気遣われるというのは求めてない。でも、こんな簡単なことでいいのか。
 かっこいいとか好きとか、真っ直ぐな言葉は相変わらず得意ではないが、嬉しくないわけじゃない。頷くとなまえは笑って抱きついてきた。