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「せんせい」
「なんだ」
「……、なんでもない」

 もうこれで四回目だ。うるさいとかしつこいとかは一切ないが用があるのならきちんと話してほしかった。無理強いするのも嫌で、話してくれるのをいつまでも待っている。帰ってきたときからずっとだ。そろそろ気になるし、このままだとそういえば今日はまともになまえの顔を見ていない。なまえの方を向き、体を寄せた。

「何かあったか」
「あ、……しつこかった? ごめんなさい」

 そうじゃないと俯いた顔を上げさせると、目が潤んでいて驚いた。親指で目元を触る。顔が真っ赤で、鼻をすすっていた。

「おい……どうした?」
「…….」
「無理には聞かんが言わないと分からない」
「言ったら嫌われそうで怖い」

 思ったより情けなかった声を取り繕う暇もなかった。何が言いたいのか本気で分からない。嫌うようなことを言うのか? たとえば? 思いつかない。まさかそんな内容だとは思わなかったがよく考えれば何度も躊躇うくらいなんだから、そういう内容だとしても納得はいく。変わらず思いつきはしないが。嫌な方向に心臓が速くなる。

「泣くほど不安になるようなことなのか?」

 答えず、なまえは顔を腕で隠してしまった。泣かれると弱い。しかし泣く理由を知ってるのはなまえだけで、それを言ってくれないと俺にはどうしようもない。ティッシュを一枚取る。

「嫌わないよ」
「……今わたし、すごく面倒くさくない?」
「そんなこと思ってない、だから、教えてくれ」

 ぽろりと新しい涙が頬を伝って胸が痛んだ。言ってくれるのをひたすら待つ。

「……え、エッチしたい」

 何を言われたのかすぐには理解できなかった。なまえの口から出た初めての言葉だったからだ。

「いつもは先生から誘ってくれるから……どう言っていいのかわかんなくて……、あと、明日先生仕事でしょ? 疲れさせたくないし……い、いやらしいって思われたくなかっ……」

 最後の言葉が本音だろう。こんなこと初めて言われた。誘うのは絶対俺からだった。ごめんなさいと改めて泣き出すなまえが可愛くて仕方なくなり、背中にじっとりと汗をかいたのがわかる。肩を引き寄せて抱きしめた。さっきとは別の意味で心臓がうるさい。ぐすぐすと肩のところで泣かれてシャツが濡れた。嫌われるかも、面倒、いやらしいと思われる、それらを無視したうえに無理強いさせたんじゃないかと心配にはなったが、一瞬で吹き飛んでしまった。

「思わないから、もう泣くな」

 自分の声がさっきみたいに情けないのに、嬉しさも帯びているのを自覚していた。なまえはいつまでも俺をドキドキさせる。嗚咽で上下する背中をさすった。こんなに泣かれると次に移れない、でも、それでも良かった。なまえはそれどころじゃないのかもしれないが。