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 今日は先生んちに帰る。どこか機嫌のいいなまえはそう言って繋いだ手をきつく握った。対する俺はそこまで機嫌は良くなかった。かと言って不機嫌というわけでもない。このまま一緒にいるとめちゃくちゃに抱いてしまいそうだと思ったからだ。嫉妬するような年齢でもないし、先ほどのなまえにそんな気がないのは勿論理解している。なまえが俺のことを好きでいてくれていることも、分かっている。
 ただ単純に、自分の女の子に触れられるのは嫌だった。これまでなまえにかかわることで嫉妬というものをまともに経験していないから、最早この気持ちが何なのかもよく分からない。これは、嫉妬なのかもしれない。気分が悪いことは確かだ。
 今日は駄目な日だったらとか、ひどく抱くことを…嫌がられたらとか、そんなことを考えている。駄目な日と、疲れている日と、あとすこしの日には、断られる。別にそれはいい。しかしこれまで、俺の認識としてはひどく抱いたことはなかったように思う。拒まれたら、と考えると、立ち直れそうにないかもしれない。
 無理にでも家に帰そうかと思い始めている自分がいる。

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「足、つかれた〜。座って脱ぎたい…」
「なまえ」
「ちょっとま…っ!?」

 結局なまえは俺の家に来た。鍵を開けたのは勿論俺で、先になまえを入れた。いつもはそんなに履かない高いヒールを早く脱ぎたいらしく、玄関先で座り込みそうになるのを腕を引っ張って止める。後ろ手に施錠し、強引に唇を割った。急な動きになまえは反応できないでいたが俺が離さなければ問題ない話だ。小さな唇はグロスというもので濡れていて、それが俺にも移る。驚いた目が至近距離から俺を見つめている。

「っせ、せん…っ」
「…ん」
「す、する…っん、ふ」
「する」
「いいけどっ、靴、脱ぎたい…っ」

 いいのかとか、靴優先なのかとか、そういう気持ちが先に来る。唇が離れて、なまえを座らせた。俺もしゃがむ。玄関の決して明るいとは言えない照明の下、なまえの顔は分かりやすく真っ赤になっていた。

「考えてること当ててやろうか」
「う、うん」
「風呂入りたい」
「……だめ? 化粧落としたい。あとちょっと汗かいたし…」
「駄目だと思うのか」
「うん…あと…」
「あと?」

 なまえは視線を落とし、靴に手をかける。

「したくなった理由、なんとなくわかる…から」

 俺の浅ましく醜い欲をなまえはこうも簡単に理解してくれる。
 そうだな、そうだ。その通りだ。本当はここで今すぐ抱きたい。ベッドやソファに行くのも惜しい、だからキスをした。でもなまえはそれをきっと嫌がるのだろうと思った。綺麗に着飾ったのを完全に取り去るというのは時間がかかるということを、俺はなまえから教わった。ぎらつく瞼をもとに戻し、着飾った服はきちんと洗ってハンガーにかけたいだろうし、ずっと拘束されていた足を労わりたいだろう。夜だ、疲れているのだ。先ほどまで男によって怖い思いをしていたのだから、当然男のしょうもない欲に付き合ってなんていられない。そうでなくてもなまえはあまり性欲がない。

 しかしそれを受け入れて、俺の気持ちを分かるという。今まで幾度となく思ってきたことだが、本当になまえはいい女だ。俺なんかには勿体ないとまで考えてしまうが、他に渡す気もさらさら無い。
 俺の、とは言ったものの、本当の意味で俺のものになる日はいつ来るのだろうと思う。

「…一緒に風呂入るか」
「えっお風呂でするの?!」
「お望みならそうするが」
「嫌、ちゃんと髪と体洗いたいし」
「……」




(180210)