「おやみょうじ」
「リカバリーガール」
「久しぶりだねえ。いるとは聞いてたよ」
「はい…あっ、先生寝てます」
「叩き起こすさ。ちょっと廊下出てなさい」
「は、はい」
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少しして、リカバリーガールは病室から出てきた。
「アンタも疲れたろ」
「いえ…、そんなでもないです」
「目が腫れてる」
「……」
わたしの周りには昔からたくさん大人がいて、子どもだったわたしが大人になっても彼らは大人のままなので、不思議な気分になることがある。今もだ。
リカバリーガールは、幼い頃からの知り合いだ。ベンチに座るわたしの隣に腰掛けて、ニコニコしながらお菓子をくれた。
「この調子じゃ体育祭くらいまでは万全にならないだろうから、しばらくは世話してやって」
「…うん」
「特に食事」
わたしの周りの大人は、優しい人ばかりだ。
「またいなくなる?」
こんなこと先生には聞けないなあと思うのに、リカバリーガールには聞けるのだから謎だ。わたしはいつまで不安がっているのだろうか。さっき、言われたばかりなのに。
年老いた小さな手が、少し間を空けて、わたしの手を撫でてまたお菓子を置いた。ちょっと他の患者さん見てくるよ、と言って去って行く。手に残ったいくつかの飴がなんだか懐かしい。鞄に入れて、病室に戻る。先生がいる。
「先生?」
「……疲れた」
包帯で見えないままだけど、リカバリーガールの“個性”は知っているので先生が今どんな顔をしているのかは予想できた。
「体育祭、いつだっけ」
「二週間後くらい」
「無理せず治せるくらいだね。良かった」
本当に良かったと言えるのかどうかは別だ。でもあの“個性”の性質上、休める期間が多いと良いのは事実。ヒーロー活動のほうは無理でも教師だけなら、この状態でもできるかも。してほしくはないけど、先生はきっとやるのだろう。わたしはそれを手伝うまでだ。
明日は臨時休校となったらしい。先生は明日の昼で退院、それから治るまではわたしの家で生活することになる。さっき話して決まったことだ。今まで泊まったことは何度もあったけど、こんな長期は初めてなのでいろいろと大変かもしれない。動けない先生の手伝いもしないといけない。正直、泣いてる暇というものは、ない。
目は痛いままだ。きっとひどい顔をしている。先生が見ていなくて良かった。ひどいと分かっているものを見せたくはない。
「帰りに先生の家寄って良い?」
「うん」
「明日何食べたい?」
「んー…」
「…眠いね、ごめん。おやすみ」
昨日の夜みたいだ。寝てしまいそうな先生を見送った。朝も出勤を見送った。今も見送った。
わたしにどうこうできることではなかったけども、なんていうかやっぱり、悲しい。何も答えなくなったのを確認して、そっと体を触る。生きてる。きっと隣にいてくれる。ずっと、これから、わたしは一人になることはないんだろうと思う。先生は約束を破ったりしない。わたしが一番知っている。でもわたしの不安は晴れない。
わたしはわたしのことが嫌いだ。心のどこかで先生を信じきれていないから。先生がそれを知ったらどう思うんだろう。
(171219)