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 正直最中のことなんて殆ど覚えていない。しかし気を失う直前の記憶は鮮明に残っている。
 脳を露出した怪物が腕を折ったりなどで俺を潰すなか、視界に見えたのは生徒三人。ヴィランが逃すはずがなかった。リーダー格の“個性”をもろに食らった俺は、何が起こるのかを理解できていた。何もかもがギリギリだったが考えもせずに自分の“個性”を発動させる。すぐに怪物に顔を叩きつけられ、俺は気を失った。

 そこで俺は、ようやくと言っていいのか分からないが、なまえのことを思い出していた。


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 意識が戻った。考えなくてもここが何処なのかなんていうのは、分かることだ。
 ここまでの大怪我は、人生で初めてだ。きつい場面は色々とあったが、なんだかんだ最悪の事態を免れていたのだ、と今になって思う。体は動かないし、そもそも全身が痛い。外傷の治療は終わったのだろうが、ばあさんの治療は多分まだだ。俺より生徒を優先すべきであっるから当然だった。
 今は何時だろうか。視線だけを動かすと気配を感じた。誰なのかは、すぐに分かった。

「…なまえ」
「!」

 呼んだら、視界になまえが入る。顔は、見たことないくらいにクシャクシャになっていた。

「せん、せ」

 俺が隣に立っているときに、悲しむことがないといいと常に思っていた。そうなるように、俺がしたかった。それなのに、こんな顔をさせてしまっていることを申し訳なく思う。起きたばかりでぼやけた視界に、動かない腕に、腹が立って仕方がない。

「先生…」

 耳に馴染む俺を呼ぶ声が、涙ながらにもはっきりした。

「うん」
「痛い…?」
「ぼちぼちな」
「…っ」

 そうしてなまえは、両手で顔を覆った。鼻をすすって肩を震わせている。

「泣くな」
「…う、ん…」
「俺は…」
「…」
「俺は」

 確証なんてないのだと思った。どれだけ気を付けても、気づかないだけで隣にいつも危険はある。生まれた瞬間に死ぬことが決まっている。既にそれを経験したなまえに、簡単なことは言えない。言えないのに、言葉にしないと伝わらないことがあった。

「お前を置いていったりしないよ」

 こんなの、なまえと一緒じゃなきゃ絶対に口に出さないことだろうなと、ときどき考えることがある。
 俺の言葉を聞いて、なまえは小さな声をあげて泣き出した。抱き締めてやりたかった。





(171218)