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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

「おかえり…?」
「…うん」
「機嫌悪い?」
「悪くはない」
「良くもないね」

入試と新年度の準備、ヒーローとしての仕事。12月からあんまり会えてなかったけれど、結構こんなに長い期間顔を合わせなかったのは久しぶりかもしれない。連絡も久しぶりだった。わたしはわたしで忙しくてそんなに気にしてなかったけど。先生の邪魔はいつだってしたくない。
玄関から鍵の開く音がしたので慌てて行くと、いつも以上になんだか黒い先生がいた。少しだけ怖い。近づくと先生はわたしに手を伸ばしかけたけど、すぐやめた。

「え…何」
「風呂入ってからにする。沸いてるか」
「…? うん」

あとから気づいたけど、先生はこのときわたしに気を使ったっぽかった。

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先生は30分くらいでお風呂を出てきた。普段シャワー5分だからめちゃくちゃ長い。すぐ動くのが嫌なくらい疲れているのかもしれない。

「すぐご飯食べる?」
「正直寝たい」
「いいよ。明日は休みなんだよね?」
「休み。お前は」
「わたしも!」
「良かった」

自分からドライヤーを持ってきていることに感動した。ボディーソープを変えたので、先生からはいい匂いがしている。少しかわいい。感動したのをいいことに、ガサガサの顔に化粧水をつけたし、リップも塗った。全然抵抗されないから、ちょっと今回は本気でやばそうだと思った。明日休みで本当に良かった。

「入試どうだった?」
「……さあな」
「素敵な“個性”いた?」
「素敵かは知らんがヒーロー向きの“個性”だから受験したんだろ」
「そういうことを聞いたんじゃない。風とかは?」
「いても教えない」
「…」
「むっとしても駄目」

ああこれだ。こうやってちょっと子ども扱いされるのが好き。伸びた髭がちょっと気になるから明日は剃ってもらおう。髭のない先生もかっこいいから久々に見たい。

「なまえ」

顎を引かれて唇を押し当てられる。さっきリップを塗ったのでしっとりしている。今日はそんな気分ではないし先生もそうなはずだけど、さっき触るのをやめた分かな、と思ったらそのままにせざるを得なかった。

「…っ。ね、寝ないの」
「寝る。起こさなくていい」
「うん…」
「…もっと?」
「い、今はいい…」

先生といるときが一番安心する。先生もそうだったらいいと何度思ったことだろう。こんなに早くから、こういうひとを見つけられたわたしって、すごく幸運なのかもしれない。これからどうなるか分からないけれど、少なくとも今わたしは楽しく生きている。
仕事をして、お金を稼いで、友達や先輩と遊んだり、先生と過ごせる自分。こんな、呆けたような、誰かに言えばポエムじみたと言われそうなことを考えるようになったのはつい最近だ。わたしは何かこれからが不安なのだろうか、とたまにぼんやり思ってしまう。
先生とヒーローを同時にできている先生が好きだ。

「ご飯片づけてから寝るね」
「悪いな」

そう言いながらいつものようにベッドに寝転がると、先生は即座に寝た。どれだけ眠かったんだろう。乾かしたばかりの髪を撫でた。付き合うようになってから、先生は初めて一年生の担任をする。




(171217)