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パソコン作業をしている俺の腰に手を巻きつけて、黙ったままそれ以上のモーションはしない。うんともすんとも言わず、ただただなまえは呼吸を繰り返している。今日は泊まるつもりはなく、ちょっと顔を見に行くだけという圧倒的非合理な行動だったが、結果なまえはおそらく助かっているのでこの選択をして正解だったのだと思いたい。
大方仕事でなんかあったんだろう。出迎えられたときの、ふて腐れた不機嫌な、でも何とか堪えたい…みたいな表情は、わりと好きだ。

「なまえ、寝るならベッド行け」
「いかない」

どうしようもなく子どもに見えるときが、ある。

「せんせえ〜…」
「なに」
「疲れた」
「うん」
「大人って大変だね。すごい」
「そうかもな」
「大人になれる気がしない」

もう立派な大人だし、大人になってくれないと困る。いつまでも子供に欲情してると、俺の立場が辛いだろ。いや、大人なんだけどな。

「せんせに追いつける気がしないもん」
「…ん、まあ、そうかもな」
「生きてる年数がちがうの、嫌だよ〜」

なまえがそんなことを言うのはひどくめずらしい。

年齢なんて気にしないと思っていた。特にこれまで年齢差に関して話したことがない。「好きだよ」その一言で成り立ってる関係は、少し、…いやかなり、俺の方が重い自覚がある。あっけらかんとしていて、いつも先生先生と言ってるから、それがなまえにとっては心地よいのではないかと勝手に思って、先生と呼ばせているつもりだった。

「はやく先生に釣り合う人になりたいな〜」
「……、うん」
「わたしも30歳になったら先生みたいになる?」
「俺よりしっかりしてるし、俺みたいにはならないよ」
「してないよ! 朝起きれないもん」

俺が早起きなのはお前を起こすためだけなんだけどな。自分しかいないならギリギリまで寝てる。それを、なまえは知らない。

「同い年の子より精神年齢低い自信がある」
「いやな自信だな。一人暮らし上手くできてるんだから相応だろ」
「そうかなあ。毎日自炊する余裕ないや」
「仕事きついのか?」

ブラックな企業ではなさそうだったが、新入社員というのはきついものらしい。頷いたなまえの気持ちを、俺は知ることができない。なまえは一般人で、俺はプロヒーロー。当たり前なんだが、悲しくもある。共有できないことが山ほどあるのを自覚してしまう。
なんとなく今は、抱きしめたくなった。パソコンを閉じ、起き上がらせて正面から抱きしめる。肩に顎を置くとくすぐったそうにした。

「もう寝るか?」
「先生今日ほんとは泊まらないつもりだったでしょ」
「本当はな」
「…かえる?」
「帰らない」
「…大人ってすごいな〜」
「お前が思ってるほど大人じゃないよ」
「じゃあわたしなんかクソガキじゃん!」
「ガキにはこんなことしない」
「そーだけど」
「はい、ほらベッド」

しっとりとした唇に自分のを合わせると目の前の顔が嬉しそうに笑った。なあ、本当にきつくなったら言えよ。俺はそのくらいは受け止められる大人だ。
なにより俺は先生だから。






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