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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -

「初詣行こう」
「……。行ってないのか」
「行ったけど先生は行ってないでしょ?」
「…コート出しとけ」
「は〜い」

手袋とマフラーを探して戻ってきたら、出ていたのはなまえのコートではなく俺のだったのでため息をつく。なまえは呑気に化粧を直していた。

「俺のじゃなくてお前のコートだ」
「あっ、そうだったの」
「どれ着るんだ?」
「グレーの長いやつ!」

この前買ったやつだ。わざと丈が長いらしいが、ダサいだろと言ったら怒られたのでもう二度と言わない。そもそも人の格好に文句をつけて良いようなセンスでもなかった。化粧直しが終わったなまえにコートを着せると、やっぱり大きすぎて着られているような感じ。家を出て少し前をちょこちょこ歩くなまえは、なんというか、いつもどおりだ。

「ばあちゃんに料理習ってきたんだよね」
「……そのために帰ったのか」
「うん! 前から習っておけばよかった」
「自炊まあまあやってただろ」
「んー。先生に作りたいから」
「…そうか。有り難いけど無理はするな」
「うん」

15分くらい歩いて、毎年来ていた神社に着く。まだちらほら人がいる。
毎年なまえのお賽銭は500円だ。俺は100円。それぞれに手を合わせ、閉じていた目を開くと視界になまえが入り込んでいた。

「なにお願いした?」
「秘密」
「そっか〜。おみくじ引きに行こう!」

100円と引き換えにおみくじ。去年の運勢なんて覚えてないが、今年も大して変わらないであろう吉。話半分に中身を読んで、なまえに目をやる。眉間にしわを寄せている。

「なまえ」
「…」
「なまえ?」
「あっ、なに?」
「いや、…結果どうだった」
「凶!」
「きょ」
「相澤さんは?」
「吉…」

凶なんて出す人間いるのか。いや目の前にいるんだが。見せて見せてと自分の紙を出してきたので交換したら、当然のように凶とあった。内容もまあ、凶らしく良くないことがつらつらとある。

「昔も凶出したからビックリした」
「…、…」
「なんか今年もあるのかなあ。良くないこと」

俺にはその、過去に起きた“良くないこと”の心当たりがあるので、その言葉になにも言えずにいる。なまえは一生懸命に俺の引いた紙を読んでいて、気にしてない風に見えるものの、多分相当に気にしている。昔の凶のときには、俺はとなりにいなかった。
なまえの凶の紙を折りたたんで勝手に結ぶことにする。突然動いた俺に動揺して、なまえも慌ててついてきた。

「わたしが結ぶよ!」
「俺が結ぶ」
「…うーん。じゃあ、先生のはわたしがやる」
「うん」
「となりに結んでいい? 吉に凶移る?」
「移るってなんだ」
「わかんない」

過ぎたことをどうこう言っても仕方ない。合理性に欠ける。自分の信条とかけ離れてはいるものの、好きな女がこうして目に見えて悲しんでいると、なにかしてやれないものかと思ってしまう。相澤さんと呼ぶ声が、先生に戻っている。とりあえず、今年の俺はその凶を振り払ってあげることしかできないのだ。
なまえの腕を引く。なに、と近づいた頬を撫でた。

「大丈夫だ」
「……」
「ん?」
「うん」

今年はなにがあるんだろう。なまえが悲しむようなことがないといい。そのための努力をしてあげたい。



(171217)