「年末年始ばあちゃんちに行っていい?」
仕事が立て込んでいる。12月は今日まで会えなかった。クリスマス直前、ファミレスでなまえはそう切り出した。許可を求めているような質問だが、べつになまえには自由にしていい権利があると思う。俺が許可するようなことじゃない。
だが今回ばかりはそれへの答えを否としたかった。
「別に、俺に聞かなくてもいいよ。行け」
「ありがとう!」
「…おばあさん、元気ないのか?」
「…? …ああ…全然元気だよ! ただ高校出てから年末年始は行ってないし」
なまえは分かりやすく笑顔になったので、これが正解なのだと思う。
「先生は? 実家帰らないの?」
「……」
「? 仕事?」
「んー…休み」
俺の答えに「じゃあ帰ればいいのに!」と言わんばかりのなまえの表情。なまえは1から100まで善意からだ。家にいても仕事か寝るかだから、なまえがいないと大した飯も食べない俺のことを心配しているんだろう。それはわかる。ありがたい話だ。
「…じゃあ帰る」
「うん! お父さんとお母さんによろしくお願いします!」
「うん」
「実家いたら難しいかもしれないけど、ちゃんと休んでね。おもち食べ過ぎたらだめだよ。太るから」
「やめろ」
俺もう30なんだよな。そんな年齢のやつが一人で実家帰ったら、言われることはひとつだ。両親はなまえの存在を知っているからそうでもないけど、親戚が。
なまえはスパゲッティを箸で食べながら俺を見つめる。
「今日はどうする? 帰る?」
「帰らない」
「先生んち、わたしの着替えある?」
「………」
「うち行こっか」
「ゴムは?」
「ないんじゃないかなあ…わかんない」
「ドラッグストア」
「…はーい」
「デザートは?」
「えっ! いいの?」
「好きにしろ」
「じゃあ、食べる…」
「早く頼め」
「そんなにうち帰りたいの」
「帰りたい」
「……」
またしばらく会えないんだなと、実家面倒だなと、ぼんやりとそう思いながらチョコのケーキを食べるなまえを見つめていた。
(171215)