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 いつお湯を沸かせばよいのかわからないでいる。夜に来る、紅茶が飲みたいと言っておきながら、だいぶ夜は深まってしまっていた。約束をやぶるような人ではないし、急用ができたのなら、ほとんど彼のためにあるといっても過言ではないわたしの家の電伝虫が鳴るはずだ。それも、まだ鳴っていない。もう日付がかわってしまう。なんだかんだで会えると思ってしまっていた心は、時間が経つにつれてしょんぼりとうつむいてしまっていた。
 べつに、もう誕生日なんてうれしくもなんともない年齢であることはだいぶ昔に自覚している。それでも今日になるのが待ちどおしいのは、次にいつ会えるかもわからない、強くていそがしい彼が毎年忘れず祝ってくれるからだった。年齢にそぐわない、少女のようなたのしみだとは思うが、もうやめられない。夕食もお風呂も済ませて、あとは寝るだけなのに、今日ばかりは寝られないでいる。
 彼は、なんとかのハキというのが使えて、未来が見えるらしい。くわしいことはよくわからないけど、今だけでいいから使いたいなと思った。あと20分で日付はかわる。ひとつため息をつき、出しっぱなしだった鍋にようやく火にかけ、窓から外をのぞいた。こんな夜中に当然人はいないし、ホーミーズもすっかりしずかになっている。彼のようなおおきな人が動いていればすぐにわかるだろう。でも、そんなようすはなかった。椅子を窓辺に寄せて座る。そのまま覗きながら、わたしは鍋のことを忘れてうとうとしてしまった。

「なまえ?」

 待ちこがれた声に、伏せていた顔をあげた。すぐに火にかけた鍋のことを思いだして立ちあがろうとしたけど、その前にとめられてしまう。

「“火にかけっぱなしだ”とおまえは言う」
「……うん。消してくれてありがとう」
「いいや。遅くなって、すまない」

 首をふった。ちらりと時計を見ると日付がかわる直前で、ほんとうにうとうとしていただけだったのを今気づく。カタクリは膝をついて、わたしの手をにぎってくれた。

「おめでとう」
「……ふふふ、うん、ありがとう。カタクリだけは、毎年わたしの誕生日を祝ってくれる」
「なまえもだろう」
「そうね。わたしもカタクリが大事だから、ちゃんと祝うよ」

 こんなふうになったきっかけがどんなだったかは忘れてしまったけど、お互いまだこどもだったころから、ずっとそう。わたしはたいして変わらないまま、でもカタクリはどんどん強くなっていって、手配書がでたりなんかして。とんでもなく遠くに行ってしまったと、かなしい気持ちになったのは一瞬だけだった。カタクリはいつだってやさしくて、おおきくて、わたしを包みこんでくれるのだ。
 時計が0時をしめす。わたしの誕生日はおわりだ。

「あの、カタクリ」
「今日は泊まる」
「……、うん、わかった」
「湯は無駄になるが、紅茶は明日の朝にしよう」
「ドーナツも固くなっちゃうけどいいの?」
「いい。優先順位がある」
「誰がいちばん?」
「そのくらいの未来なら見えるようになれ。寝るぞ」
「隣で寝てくれる?」

 額同士がこつんとぶつかり、抱きしめて寝てやると言われ、心臓がすこしだけうるさくなった。永遠なんてものはないとわかっている年齢なのに、これがいつまでも続いてほしいと思っている。




191117 へそ