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「#幼馴染」のBL小説を読む
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 なまえがケースの中を見つめ続けて数分。スモーカーは店に入ったときから手持ち無沙汰だった。店内では煙草に火をつけられない。自分たち以外には客がいないから早くしろと急かすこともできないし、そうすると店員の顔は存分に悩んでくださいねと言っているように見えてくる。たまにはケーキでも買うかというただの思いつきであるなら急かしたが、今日のはなまえの誕生日のためのものだった。主役が食べたいケーキを選ぶべきだ、そう言って誘ったときのなまえの顔を思い出すと、スモーカーの胸はくすぐったくなる。そういう意味でも、急かせないでいる。

「食べたいの全部買ったらだめ?」
「……冷蔵庫に入るならいい」
「入らないか……は〜あ、全部おいしそ」

 家の冷蔵庫は小さいわけではないが、大きいわけでもない。どれだけ買うんだとスモーカーはぞっとした。

「ホールケーキのほうがいいかな?」
「お前の好きにしろ」
「本当にどれでもいい?」
「今日は何の日だ?」
「わたしの誕生日」

 そういうことだ、スモーカーはなまえを見下ろす。そっかと呟いたなまえは、店員にケーキの名前を伝えた。呪文のようなそれはずっと続き、店員は聞き漏らさずどんどんトレイに乗せていく。流石に多すぎるとスモーカーが口を挟もうとしたとき、なまえは「以上です」と注文を終わらせた。

「スモーカー、ありがとう!」

 支払いを済ませ、たくさんのケーキが入った箱を持ったスモーカーに、なまえが笑顔で礼を言う。あまりの数についてすこし説教をしようと思っていたのに、そんな顔をされてしまったら、もう何も言えない。スモーカーはハアと大きく息を吐いた。

「入るのか? 冷蔵庫」
「入れる前に食べる」
「……誰が?」
「わたしと、スモーカー。ね、コーヒーも淹れてほしいな」

 なまえはスモーカーのたくましい腕に自分のものを絡めた。今日はもう、スモーカーが自分のために何でもやってくれると分かっていての発言で、それをスモーカーも分かっていた。ようやく火をつけられた煙草を深く吸いながらなまえを見つめる。

「他には?」
「今日一日ずっと一緒にいて」
「いてやる。それだけか?」
「帰ったら抱きしめて?」
「してやる」
「キスもして」
「あァ」
「……えーと、もう無い……」
「添い寝は?」
「……スモーカーから添い寝って単語出るの面白いね」
「……」
「そんなこと言うバカにはやらないって言おうと思ったけど誕生日だから言わないでおいたって顔してる」

 すべて図星だったので、スモーカーは目をそらした。それを見たなまえは微笑む。
 普段は仕事であまり顔を合わせられないのをスモーカーは申し訳なく思っていて、誕生日くらいはと休みをどうにかもぎ取ってくれたのを、実はなまえは知っていた。選ばせてくれたケーキも、願えばなんでもしてくれるのもちゃんと嬉しい、でもいちばん嬉しいのは、こうやってわざわざ休みを選んで隣にいてくれることだった。なまえが腕に力を込めると、スモーカーはふっと笑った。
 帰る足が少しだけ速くなる。早く帰って抱きしめたい。抱きしめてほしい。二人の頭の中はそればかりになってしまっていた。





191113 へそ