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 少し前から差出人不明で荷物がたくさん届くようになった。毎日なもんだから、宅配のお兄さんのことはお互い認識してしまうようになってしまった。昨日と同じ時間のインターホンに出ると、昨日も見たお兄さんの顔。
 なにが入っているのか分からないから、開けてもいない。全部玄関に置きっぱなしだ。サインをして受け取る。通販を頼んだ覚えはないし、本当になんなんだろう。受取拒否でもしたらよかったかな。中身、爆弾だったりして。でももうこんなことが一週間続いている。爆弾なら、とうの昔に爆発している。今日の荷物をこれまでの箱の上に乗せて部屋に戻った。



 次の日。カレンダーを見たら、今日はわたしの誕生日だった。すっかり忘れていたけど、この歳になると嬉しくもなんともないし、そんなもんだろう。また同じ時間にインターホンが鳴り、はいはいと言いながら玄関に向かう。今日の宅配なら、誰かからの誕生日プレゼントかな? と思うのに……もしかしてこれまでのも誕生日プレゼントだった? でも多すぎる。そんなに友達はいないし、全部差出人不明だから同一人物の可能性が高い。いつまでお兄さんと顔を合わせるんだろう。鍵をあけて扉を開くと、そこにいつものお兄さんはいなかった。代わりに、真っ黒で、大きくて、あと……くさい。宅配のお兄さんからしていいような匂いでは、ない。

「相変わらずここの扉はおれに合わねェな」

 知らない人ではないが、ここにいるはずのない人だった。くさいとは思ったが、嗅ぎ慣れてはいた。でも嫌いな匂いだ。おそろしい鉤爪、たくさんついた指輪、怖い顔、全部知っている。何故ここに? 監獄にいるはずだ。悪事がバレて……絶対出てこれないはずで……。いや、正確にいえば脱獄したことは知っていた。マリンフォードの戦争はひどく大きい出来事だったから。
 少し屈んで入ってくるのを見るのはいつぶりだろう。コートを受け取るのは……本当に、いつぶりだろう。

「開けてねェのか」
「え?」
「箱」
「……爆弾かと思って」

 そう言ったわたしに、真っ黒の大男、クロコダイルは目を細めた。

「灰皿」

 葉巻に手を添えたのを見て頷き、部屋に戻る。コートをソファに置いて、灰皿をさがす。どこに置いたっけ。前はずっと、テーブルの上にあったけど、使う人がいなくなり片付けてしまった。仕舞った場所を思い出せず、しばらく探す。ようやく見つけたときにはもう5分も経っていて、待たせて怒られるかなと思ったけど、なにも言われなかった。でも玄関は煙たくなっていた。
 両手で差し出した重い灰皿に葉巻を押しつけられ、火が消える。大きな手に軽々と取られて、靴箱の上に灰皿はおさまった。別に置くくらい自分でできるけどな、と思っていると、突然引っ張られて体が浮いた。うわっ、というださい声が出る。
 抱きしめられていた。腕ごと、しかも結構力が入っていて、驚きやときめきより痛みのほうが勝ってしまっている。

「痛い」
「……もう少しだけだ」

 嫌がってると思われたのだろうか。ただ単に痛いだけだ。それに、わたしもクロコダイルに触りたかった。そっちばっかりずるい。

「……ねえ、クロコダイル」
「何だ」
「い、言うこと……あるよね?」

 欲しい言葉はひとつだった。まだ開けてないけど、たくさん何かを贈ってくれたのは、嬉しい。誕生日の前には物を、当日には自分をって、狙ってやったのかな? プレゼントは自分ってやつ? そう聞いたらきっと怒られるだろうから、聞かないでおく。
 ここに帰ってきたからただいま、じゃない。勝手にいなくなって捕まって心配かけてごめんなさい、でもない。下ろされて、目が合う。いい歳こいて何を言ってるんだって、自分が一番わかっている。実際忘れてたし。でも、わざわざ今日来てくれたってことは、そういうことだよね? 視界が揺らめく。わたしに意地の悪いことをするのが好きだったくせに、なぜか今日だけは笑ってくれない。

「……おめでとう」

 ぽたりと落ちるはずだった涙は、クロコダイルの指に吸い込まれていった。たしかにわたしが望んだ言葉だけど、こうしてすぐに貰えると、素直なクロコダイルは変だなと思う。たくさん心配した。捨てられたかなと思った。もう会えないと思った。ここに来なくなって、クロコダイルのことを思って泣いたこともあった。でももう、いい。わざわざ今日を選んで帰ってきてくれたという事実が、何よりもうれしかった。腕を広げた。今度はわたしもクロコダイルを抱きしめることができる。もう勝手にどこかに行かないで。震えるわたしの声に、クロコダイルは静かに頷いてくれた。



191102 彼女