「なまえ誕生日おめでとう〜!」
登校するなりお祝いの言葉をもらった。今日はわたしの誕生日で、朝にお父さんとお母さんに祝ってもらっていたから、忘れてた〜みたいなことにはならなかったけど、わかっていてもなんだか照れた。
「ありがと!」
「放課後ケーキ食べよ!」
「プレゼントもありますわ」
「みょうじ誕生日なん!?」
「めでたいめでたい」
「おめでと〜」
このクラスは入学時から空気がいいなと思ってたけど、間違いではなかった。こんなにおめでとうと言ってもらった誕生日は初めてかもしれない。もちろんわたしも、誰かが誕生日なら祝うし。お菓子をくれたり、スマホの充電優先してやる! と言ってもらったり、それぞれのお祝いがうれしかった。ワアワアやっていると、ガラリと教室の扉が開く。
「席につけ」
相澤先生だ。怒られる前にやれという話だけど、A組は先生に怒られてからの行動の速さはピカイチだと思う。慌てて席についてこっそり息を整えていると、机のうえにもらったお菓子やらなんやらが乗っているのが目に入る。関係のないものを出しっぱなしにしてるのもお叱りの対象だ。ちらっと先生をうかがうと、わたしをじろっと見ていたので、急いで机のなかに押し込んだ。
眠い座学に疲れる実技、いつもどおり大変な授業をこなした。普段なら夕方にはすっかりくたびれているけど、なんてったって今日は誕生日。単純なのでそれだけで気分は元気なままでいられた。ミスをして膝を擦りむいたけど、気にしない。放課後にはケーキが待ってるし、帰ればお母さんがリクエストした美味しいご飯を作ってくれている。はずだった。
「みょうじ、ホームルーム終わったら職員室に来い」
「え?」
「この前の希望用紙に不備があった」
こんなことってある? わたしよりケーキを楽しみにしていた三奈からの視線が痛い。いや、書き忘れか何かをしていたわたしのせいなんだけど。でもよりによって今日? 全面的に自分が悪いのに、先生をうらみたくなってくる。一気に疲れが押し寄せてきた。気をつけて帰れと締めくくられたホームルームから先生が出ていくと、あははという笑い声が響いた。
「なまえの馬鹿〜!!」
「そこまで言う?」
「まあケーキ食べれないわけじゃないし」
「準備はしておくわ」
「待たせたら怒られるよ!」
そのとおりだ。肩を押されて、ペンケースを持って教室を出た。走っていると、相澤先生の黒い姿が向こうに見えてくる。
「先生! 一緒に行ってもいいですか」
「廊下は走るな」
「はーい。不備ってなんですか?」
「自分の名前書いてなかったぞ。テストなら0点だ」
「テストじゃなくて良かった〜」
「名前は一番に書けと何度も言ってるはずだがな」
失礼しますと職員室に入る。ここに来るのは初めてではないけど、生徒のための部屋ではないから、結構緊張している。先生のデスクのいちばん上に紙は用意されていたみたいで、すぐ渡してもらえた。
「ほんとだ、名前だけ綺麗にない。学年とクラスはあるのに」
「はやく書け」
そうだ、みんな待ってくれてるんだった。シャーペンを出して、急いで名前を書いてまた先生に返す。
「次はないからな」
「はい!」
「気をつけて帰れ。あと、誕生日おめでとう」
パチッと目が合って、一瞬なにを言われたのかわからなくなった。いつもなにを考えているのか読めない目が、なんとなく笑っているように見える。まさか、祝いの言葉を担任の先生からももらえるとは。わたしたち生徒のことをしっかり見てくれているのは感じているし、朝の騒ぎは聞かれていただろうし、知っていても何らおかしくはないけど。
「……あ、ありがとうございます」
「遅くなりすぎるなよ」
放課後ケーキを食べることも知っているようだ。頷くと、話は終わりの合図なのかデスクに向かってしまった。
なにか、言いようのないものがこみ上げる。顔が熱い。わたし、これからもこのクラスでずっと、頑張っていけそう。わたしって本当、単純だ。
191101 惑星