×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「そうですよ、今日はなまえちゃんのお誕生日です。弔くんもお祝いしてましたよ。もちろん私もお祝いしました。お友達ですから。プレゼントも渡しました」

 トガが頬を赤くしたのを見て、大きくため息をつきそうになった。今日がなまえの誕生日? 聞いてない。この女はどこからその情報を手に入れたんだ。聞いたんだろうな。俺が自分の誕生日に興味がないように、なまえも自分の誕生日に興味がなく、わざわざ言ったりしなかったのかもしれない。聞かれたから言った、そのあたりだ、きっと。このアジトに出入りするような人間は、そんな奴らばかりだ。

「もう一時間くらい戻るの早かったら、まだなまえちゃんいましたよ。荼毘くん、もしかしてお祝いしてないんですか? 今日はもうお家に帰るって言ってたし、行ってみたら? きっと喜んでくれます」

 言われなくてもそうしたのに、先に言われた。考えるふりをして、アジトを出る。聞き耳を立てると、カウンターに座って黙っていただけの死柄木が「だせぇな」と言っている。お前だってどうせトガが祝ったから便乗したんだろ。死柄木の言葉にムカつきはしたがその通りでもあった。



 古くさいアパート。無いに等しいセキュリティだが、なまえにそんなものは関係がないからここなのだろう。汚い音が鳴るインターホンを押す。バタバタとデカい音が響いているのを聞き、ここにだけは住みたくねえなと考える。

「誰? あ、荼毘」

 誰と聞くほど人が来るのか疑問だったが、連合のやつらの人数を考えたらそんなもんだった。飯を、風呂を、ここにたかりにくる。俺もそうだった。

「風呂には早くない? 掃除してない」
「風呂じゃねぇよ」
「はあ。ご飯もまだだけど」
「……飯でもねぇ」
「じゃあ寝に来た? ちょうど今日シーツ洗ったよ、よかったね。ヒミコが羨ましがる」

 俺たちがどれだけなまえの家を宿代わりにしているのかが伺える最悪な会話だった。まともに住居を持っているのはなまえとトゥワイスくらいで、特に見た目にうるさいなまえはよく風呂に入れと促してくる。そうじゃないと何度も首を振る。お前がシーツを洗ったんだからまず一番にお前が寝ろ。いや、……そうじゃない。

「おい! 何してんの。寒い、早く入ってよ」

 用も聞かずに人を入れるなと言いたかったが、うまく口は動かない。寒いなら燃やそうかという提案は即却下された。

「シーツ干してるから布団につけて」
「なんで俺が」
「それくらいしたっていいでしょ! タダ宿なんだから」

 何を怒ってんだ、泊まるとも言ってないのに。早くしろと急かされシーツを取ると、テーブルの上の袋が目に入る。ハッピーバースデーというカードが貼られていて、そこで俺はようやく本来の目的を思い出した。

「それ! ヒミコからもらったの。誕生日いつですか〜って聞かれてさ、友達だから祝いたいって。ほんと、かわいいよね。中身はまだ見てないけど……」

 賢明だ。俺なら受け取りもしない。

「今日の晩ご飯、豪華だよ。食べて行く?」
「……それこそあの女でも呼べばいい」
「嫌、何回もアジトに行きたくない。わたしはあそこに住んでるわけじゃないから、職場みたいなもんだし。何度も出勤したくないし……ケーキはホールじゃないし」

 数回のチャンスを棒に振っていることは理解している。なまえがわざわざそれを用意してくれていることも。なまえを見ると、うらめしそうに俺から視線をそらさない。そういうところだった。

「……誕生日おめでとう」
「遅! 玄関開けた瞬間に言ってよね。弔でもすぐ言ってくれたよ」
「どうせトガの後だろ」
「そうだけど荼毘よりやさしいよ。なんかわたしが祝われたい人みたいじゃん」
「その通りだろうが」
「帰れ! アホ」

 この家にいると、なまえといると、自分がよくわからなくなる。なまえのせいだ、何もかも。ゆっくり時間が過ぎていく。すべてがまともだと錯覚する。そんなはずないのにな。一歩外に出れば、俺もなまえも犯罪者。犯罪者がきちんとした生活をするなと言うつもりはないし、これがあるからなまえはなまえなんだろう。今日は飯をたかることにした。



191030 約30の嘘