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「はい、どうぞ」
「ありがと……ございます」

 目の前の立派なケーキの名前はフォンダンショコラだと教えてもらった。へえと返事をしたらよだれが垂れそうになり、あわてて吸って拭う。だらしないさまを見られてしまったかもしれないとそっとサンジくんを見上げると、ニコニコとわらいかけてくれた。次に出されたかわいいカップにはブラックコーヒーが入っていて、たくさんのいい匂いが鼻を通りぬけてゆく。

「うわ……うわ! チョコレート出てきた……すごい! こんなことできるの? これ、焼いてないの?」
「もちろん焼いてるよ」

 これまでわたしは、あまり手のこんだ食事を食べてこなかった。食べられるのならぜんぶ一緒だと本気で信じていて、でもそんなことはないのを、サンジくんの作るごはんで知った。
 白いお皿に広がっていくチョコレートをどうやって食べたらいいのかわからなくてサンジくんを見たら、「好きなように食べていいんだよ」とわらわれる。

「くわしく褒められるほど知識ないのが申し訳ないんだけど、あの、すごくおいしい……。ありがとう」
「そんなことないよ、喜んでもらえてうれしい。おれのほうこそありがとう」

 真面目な顔してお互いにお礼を言うのがおもしろくなってしまって、ふたり同時にぷっと吹き出した。