「キャプテンごめんなさい」 「……。謝られるようなことをされた覚えはないが」 「バレンタインのチョコレート間に合わないんです」 くだらないと一蹴しそうになりながら見たなまえの顔がほんとうに申し訳なさそうだったから、ローは開きかけた口をしずかに閉じた。ロー自身は特にもらえるもらえないを気にしてはいなかったが、毎年もらえるチョコレートを無下にしたことはない。くれたのなら一ヶ月後にしっかりかえすし、ないのなら当然かえすものはない。気にしなくていいと本気で思ったが、気にしないのならこんな顔はしない。ローはなまえのことをそれなりにわかっていた。 「じゃあ別のもので代用しろ」 「べつの? いいですけど、あんまりお金かかることは……。みんなの分のチョコレートもまだで、次の島で買う予定なんです」 「良い。宿を取るから付き合え」 なまえがそんなに鈍くはないこともわかっている。パチパチと瞬きしたあと「宿?」と眉を下げた。 「いつもやってることじゃ?」 「そうだな。だが無駄に悩まなくていいし、金もかからずに済むだろ」 「……キャプテンがそれでいいなら」 「キャプテンじゃねェ」 「えーと、ローがいいなら、そうさせてもらっていいですか?」 頷くかわりにローは体をかがめてなまえに顔を近づけた。 |