飲み過ぎ注意!


「それじゃあ一課のみなさん!かんぱーい!」

縢のかけ声に合わせて乾杯、と言いつつグラスをもつ。
グラス同士がふれあう音が大人になったことを実感させる。

今日は12月24日の夜。
クリスマスイブだ。
せっかくのイベントであるし、一課みんなで飲み会をしようなんてことが突然企画された。
部屋は縢の部屋。
朱は以前一度来たことがあるが彼の料理はかなりの腕前だ。縢が腕によりをかけたクリスマス料理がテーブルに並んでいる。
そしてワインやビール、日本酒まで並べられ、皆各々好きな酒をグラスに注いでいる。

「うん、うまい!」

豪快な一口の後、声をあげたのは征陸だ。
流石最年長、すごいのみっぷり。

「俺も俺も〜!どれがおすすめっすかぁ?」

「そうだな、これなんかどうだ?」

「うまそうっすね、これ飲みます!」

「あぁでもこいつアルコール度数高いぞ?子供にはまだ早いな」

「大丈夫っす、これでも俺、飲んだことあるんっすよ?」

「俺もそれをいただこう」

「宜野座まで…後で酔いつぶれても知らんぞ」

あれ、縢くん前だいぶ酔ってなかったっけ?
と言おうとした朱だがやめておいた。

「こう見えても、お酒強いっすよ俺!」

「すぐに酔うと分かっていれば頼まない」

縢と宜野座が酒を受け取ると一口。二人とも満足そうだ。

二人を眺めながら料理を口に運ぶ。
美味しい、本当の料理ってやっぱり違う。

「常守監視官、あなたは飲まないの?」

「えっ?あ、飲みますよ!ただ縢くんの料理が美味しくて」

「でしょでしょ?どんどん食べてね〜」

「縢、あんたはおとなしく飲んでなさい」

「クリスマスくらいテンションあげてこうよ!」

「あんたはひとりで盛り上がりすぎよ」

「あらあら、喧嘩しないの!ほら、弥生も飲む?私の好きなワイン」

「…いただくわ」

六合塚が志恩からワインを受け取る。

「どうですか?」

「美味しい」

「よかったわ!やっぱりお酒飲まないのは勿体ないわよ」

「たまにだからおいしいのよ」

グラスのワインにまた口をつけると前に座っている狡噛が視界に入った。
先ほどから次々と酒をあおっているが大丈夫なんだろうか。
大丈夫なんだろうな。あんな丈夫な体してるんだから。

「…なんだ常守」

「いえっ、狡噛さんすごく飲むなぁって…」

「そうか?逆にあんたは遠慮し過ぎだろう」

「私だってたくさん飲んでますよ」

「あまり飲み過ぎるなよ。明日に響く」

「はい!…あれ」

狡噛のすぐとなり。なにか下を向いたまま動かない人物が1人。

「おいギノ…?」

「なんだ狡噛」

「おまえまさか」

「酔ってなどいない」

「だから止めたんだ、あんな酒やめとけって」

征陸が心配そうに宜野座を見るが具合が悪いのは一目で見て取れる。
宜野座は酒が弱いらしい。

「水、飲むか?」

「いらん。酒で十分だ」

「おいちょっと待てそれ以上飲む気か!?」

「あぁ…っ、」

「ギノ!?」

「ギノさん大丈夫っすかぁ!?」

こてん。顔を上げたと思ったらすぐ隣の狡噛に寄りかかってしまった。

「大丈夫ですか宜野座さん」

「具合がわるいんだろ。ソファーに寝かせてやれ」

「わかった」

狡噛が宜野座をソファーに寝かせるとすぐすうすうと寝息をたてた。

「あらあら、宜野座監視官は見た目によらずねぇ」

そういって本日何杯目かのワインを飲む。

「志恩さんはお酒つよいんですね」

「よく言われるわ!朱ちゃんもどんどん飲んで」

2杯目のグラスを手にとる。
これも美味しい。

宜野座がすっかり酔いつぶれた頃、次に異変が起きたのは宴会の提案者、縢だった。

「朱ちゃ〜ん」

「縢くん、さっきからちょっと変じゃない…?」

「俺が変?そんなことないよー?」

「あんたはいつも変だけど確実に酔ってるわね。ほっといていいわよ」

「えっでも」

「ほっとけ常守。そのうち寝付くだろう」

「コウ、縢をお嬢さんから引きはがしてやれ」

「わかった」

狡噛は征陸に言われたとおり朱から縢を引き剥がす。

「なにすんのさこーちゃん!」

「あんたはおとなしく寝てろ」

「やだー、こーちゃんまだみんなといるー」

「縢くんは酔うと甘えんぼさんになるのね」

いくら飲んでもいつも通りな志恩さんが言う。
しばらくすると縢は眠ってしまい、宜野座が寝ているソファーの向かいに寝かせてやる。

「ふたりとも寝ちゃいましたね…」

「そうだな、お嬢さん、もう一杯どうだ」

「まだのむんですか!?」

「なに言ってるの、これからじゃないの…あら?」

次は六合塚だった。

「少し、飲み過ぎたみたい」

「そうかもねぇ、分かったわ。私が弥生を部屋まで連れて行くわ」

「帰るのか?」

「ええ。弥生心配だしねぇ」

くすくすと笑うと志恩さんは六合塚をつれて出て行った。

「三人に、なっちゃいました」

「そうだな。常守は大丈夫か?」

「私は大丈夫です。お酒は強いほうみたいなんです、私」

「たしかにお嬢さんは強いな。たいして飲んだこともないんだろう?それより次に心配なのはコウじゃないのか?」

「他人の心配しないで自分の心配するべきじゃないのかとっつぁん」

「ははは、そうは言っても顔が赤いぞ、コウ」

「んなこと…」

そう反論すると征陸はニカッと笑い、立ち上がった。

「お嬢さん、コウのこと一緒に部屋まで送ってくれないか」

「征陸さん…?」

「あぁ、むさい男ふたりと飲んでもつまらないだろ?全員酔いつぶれたら大変だ。今日はお開きだ」

「そうですね」

狡噛をつれて縢の部屋を出る。
食器などが出しっぱなしになってしまったけど、縢があとで片づけてくれるのだろう。
縢くん、ごめんね。

しばらく歩くと狡噛の部屋についた。

「じゃあお嬢さん、後は頼んだぞ。俺はこっちだからな」

征陸が左の方向を指す。
どうやら征陸の部屋はあちらにあるようだ。

「はい、ありがとうございました。お疲れさまです!」

去っていく征陸は振り返らずそのまま手を振った。
こういうところがベテランっぽいんだよな。

「悪いな常守…ドアを開けてくれないか」

「はい!どうぞ」

ドアを開くと、狡噛は倒れるように座り込んだ。

「はぁ…」

「大丈夫ですか狡噛さん!」

「あぁ、ありがとう朱」

「っ!?」

狡噛が礼を言った。
しかも自分のことを名前で呼んだ。
これも酔っているからだろうか。とりあえず狡噛の隣に腰をおとす。

「朱、」

「わっ、…ちょ、狡噛さん!?どうしちゃったんですか!?」

朱が近づいた瞬間、狡噛はぎゅっと朱に抱きついた。
これにはさすがの朱も動揺する。
今までまったく男性経験がないのだから、抱きしめられるのは初めてだ。
狡噛の体はほんのりと暖かくて、息からは酒の香りがする。
しかし困ったことに狡噛の肩を押してもびくともしない。
しばらくそのままでいれば寝てしまうだろう―そう思ってしばらく待つが瞼が重くなってきたのは自分のほうだった。

「朱」

「ふぁい…?」

「泊まってくか?」

「ん…」

なんかもう、いいや。
狡噛さんのところなら大丈夫だろう。
公安局のセキュリティーだ。でもキャンディには後で突っかかれるかな。まぁいいや。

朱は狡噛に身を任せて、瞳を閉じた。
ふたりは眠りの中に落ちていく。

とりあえず、一課のみんなで飲むのはこれからないんだろうな。
眠りに支配されていく中、そんなことを考えていた。


二人が起きた後のことはまた別の話。



12*12*26
クリスマス大遅刻

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