頬の温度


「今回は通常より危険を伴う任務だ。普段より気を引き締めていってくれ」

一課をとりまとめる宜野座がそういうと、全員の顔がキッと引き締まる。
時刻は夜7時。
既に暗くなり、街は看板などの光がまぶしい時間だ。
少し冷えるかなと公安局のジャケットを羽織ろうと手に取ったところで、宜野座が朱に話しかけてきた。

「常守監視官。今日は狡噛とバディだ」

「えっ、私と狡噛さんとですか?」

ちらりと狡噛の方を見るとあちらも朱の方を見ていたようだ。
あ、目があった。

「あんたはただ見届けているだけでいい…前にもそういったはずだ」

狡噛は朱の不安を見抜いていたようだった。

「はいっ!」

「いい返事だ」

狡噛はフッと笑った。
この瞬間、朱は少し胸が狭くなる感じがする。
それがよく分からないのは最近の悩みの一つだった。

宜野座は並んで去っていく二人を見つめながら心配そうに見つめていた。

***


狡噛の半歩後ろをついて行く。
夜の街は少しだけ肌寒い。
やっぱりジャケットを着てくるべきだったか。
宜野座に話しかけられてすっかり忘れてきてしまっていた。

ドミネーターを両手で握り、息を潜めて潜在犯を探す。
このときの緊張は何度経験してもなれない。
ましてや今回は狡噛と二人だ。
狡噛と組むこと自体が恐いわけではない。
朱が恐いのは、また狡噛を撃つようなことがないか。

いつもの任務の時にこれほど考え事をすることはない朱。
集中しなければと思ったときにはもう遅かった。

「常守っ!」

「え…っ!」

突如現れた潜在犯。
暗闇でよく見えないが若者の男で全身黒っぽい服で身を包んでいる。

男は建物の陰から飛び出して、朱に襲いかかる。
ナイフのようなものを振り下ろすと同時に頬をに痛みが走った。
すぐに距離をとりドミネーターを構えたが再び襲いかかってくる。

「常守、走れ!」

ドミネーターを抱えて走りだす。
少しばかり走った後、男の悲鳴が聞こえた。それは狡噛が男の排除に成功したことを意味していて、朱はその場にへたりと倒れ込んだ。

肩が上下して息が切れて呼吸するのが精一杯だ。
自分はこんなにも体力がなかっただろうか。

「常守、無事か!?」

「こっ…狡噛さん…」

振り向くと後ろから走ってくる狡噛が見えた。
狡噛は朱のそばに駆けつけると顔を覗き込んだ。

「あんた、顔…切れてるぞ」

「あっ、…はい、多分ナイフで」

「ハイじゃないだろ、痛みは」

「大丈夫、です…」

「常守嘘つくな」

そう言うと狡噛は朱の顔を優しく包み込んだ。
女の朱の顔は狡噛の顔にすっぽりと収まった。

顔が、近い。

「女が顔に傷作ったらダメだ」

「大丈夫ですから、狡噛さん、傷ぐらい舐めれば治りますから」

「そうか…じゃあ少し我慢しろ」

「えっ、ぁっ…!?」

狡噛の顔がさらに近づいたと思えば次の瞬間には傷口をぺろりと舐めた。
ちゅ、と音がして、びくりと肩を震わせた。

「なっ、なにしてるんですか狡噛さん」

「舐めれば治るんだろう?」

「そういう意味じゃないです…」

あぁ、やっぱりこの人はよく分からない。
そんなことをしているうちに息がだいぶ整ってきた。立てるかと聞かれはいと答えて立ち上がったものの、何故かふらつく。
狡噛は走ったせいかと心配していたようだったがこれは完全に狡噛のせいであった。

「ところでその格好で出歩くつもりか?」

「え、…ぁ」

胸元がやけに涼しいと思ったらブラウスも切れていた。
そこまでひどくはなかったがこれはもう着れないだろう。
慌てて両腕で隠すと狡噛は着ていたコートを脱いで朱に投げる。

「あっ、ありがとうございます!」

「今日のバディが俺でよかったな、あんた」

そうしてクスッとわらった。

狡噛さん、それどういう意味ですか。
彼にふれられた頬を触ったらほんのりと暖かい。
"それって恋?"―いつか言われたその言葉が聞こえたような気がして必死に否定したのを半歩先を行く狡噛は気づいてないんだろう。



12*12*15
書きたいこと詰め込んだら大変なことになるのがよく分かりました。

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