憂鬱レイニー


「嘘つき…」

天気予報が嘘をついた。
いくら技術が進歩しようと、人間は天気には勝てない。
さっきまで明るかった空は急に暗くなり、今はざあざあと土砂降りの雨が降っている。

これだったら一課に折りたたみ傘をおいておくべきだったのに。
忙しさのあまりそこまで気が回らなかった。
後悔するも時すでに遅し、走って帰るしか方法はない。

鞄を胸の前に抱え込み、いざ雨の中へ。

一歩踏み出そうとした、そのときだった。

「常守」

「ひゃっ…!」

スーツの襟をぐいと掴まれ元の位置に戻された。
見上げてそこにいたのは狡噛だった。

狡噛は執行官のはずだ。目の前は外で監視官の同伴がなければ外に出ることは許されない彼がどうしてここにいるのか。

「狡噛さん?」

「アンタ、傘は」

「今日降らないって聞いてたんで、持ってきてなくて」

こうして話していると身長差もあってか狡噛は冷たく見える。
切れ長の瞳が朱をとらえる。

「それで、傘のないまま帰ろうとでもしてたのか?」

「はい、…あ、でも大丈夫ですよ、家すぐ近くですし」



「風邪でも引いたらどうするんだ、これを使え」

そういって渡されたのは真っ黒な折りたたみ傘。
まさかわざわざ自分のためにここまでこれを渡しに追いかけてきたのか。

「でも狡噛さんは」

「俺は使わないから大丈夫だ。それよりアンタに風邪を引かれた方が困る」

そういって中へ引き返そうとする。

「あっ…ありがとうございますっ!」

「気をつけて帰れよ」

振り向いて一言。
あぁ、これだから彼という人は分からない。
冷たいのか、優しいのか。
そして、この自分の気持ちさえも。

わからないことだらけだ。そんな呟きは雨の中へと消えた。



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