heavy smoker
「吸いすぎですよ、煙草」
もう一本、と手を伸ばした狡噛から煙草の箱を奪い取る。
「何本吸うつもりなんですか」
「アンタには関係ない」
とはいっても既に灰皿の中には4、5本の吸い殻が入っている。
「体に悪いです。サイコパスだって濁…」
「もうとっくに俺は潜在犯だ」
あ、と手を口に当てる朱から煙草の箱を奪い返すと一本取り出し火をつけた。
「…そんなに好きですか、煙草」
なんでそんなに吸うんですかと朱は狡噛に聞く。
煙草の煙が苦手なのだ。
煙を少しでも吸うとすぐむせてしまう。
だから煙草を吸っている人には近寄れない。
皆捜査に行っていて今刑事課にいるのは2人だけであるし、近寄れないとモニターがみれない。朱にはとって不都合だった。
「アンタは煙草が苦手か?」
「はい…煙吸うとむせちゃって」
「それはすまなかった」
「あっ、いえ」
案外あっさりわかってくれたものだからちょっと拍子抜けした。
狡噛は吸っていた煙草を灰皿に押し付け火を消した。
煙の代わりに彼から煙草の大人っぽい香りがする。
「それで…どこまで話しましたっけ」
「あぁ、これだ、見えるか?」
デスクに座り直した狡噛がマウスを動かしモニターに資料をいくつか映し出した。
「これって事件現場の…狡噛さん?」
彼のすぐ後ろからモニターを覗き込んでいた朱。
狡噛が振り向くと丁度2人の距離はゼロになるくらいまで、近く。
「男と2人だけってのに無防備すぎじゃないか?常守監視官」
「えっ…っん、」
狡噛が朱の方を振り向いて本当に距離がゼロになってしまった。
煙草の苦味が口内に広がる。煙草とはこんなに苦いものなのか。
付き合ってもないのにキス、だなんて。しかも職場で。
そうこうしているうちに唇が離れた。どうしようか、なんて反応したらいいかわからない。
「とりあえず男との距離には気をつけておけ」
「…あ、」
なるほどそういうことか。
捜査上距離が近くなりやすいから煙草を吸っていたのか。
いやでもそれじゃまるで彼が。
狡噛さんってやっぱりよくわからない。
ぐるぐると思考回路が回る中で、ファーストキスの想像とは違う味がまだ残っていた。
12*12*08
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