さよならの前に
※鏡花水月さんへ相互記念
「異動、ですか」
「そうだ。突然だがあっちの監視官に1人負傷者がでて人手不足らしい」
「…それっていつまでですか?」
「わからない。もしかしたらずっとあっちの勤務になるかもしれない。覚悟しておいてほしい」
「はい」
急な話だった。
初勤務時に人手不足だ、と言われたくらいだから異動なんて事はない。そう思って可能性を考えたことすらなかった。
「行き先は刑事課三係。やっていることは一係と殆ど変わらない。常守監視官。君ならやっていけるはずだ」
「…ありがとうございます」
宜野座の話はあっさりと終わった。
自分の席につき、ついふうとため息をついてしまった。
宜野座さんにばれてないよね?
「いきなり異動だなんて」
あんまりだ。
* * *
「へぇ、じゃあ一係のメンバーとはあまり顔をあわせなくなるわね」
「やっぱりそうですか」
ここは唐之杜のラボ。朱は休憩時間がてら唐之杜に会いにきたのだった。
話題は勿論、朱の異動。
「でも三係でしょ?あそこの執行官には百田たちがいるじゃない」
「でも、」
「なぁに、そんなに慎也くんと離れるのが寂しいの?」
「…えっ、ちょ!?なんでそこで狡噛さんが!」
朱は驚きの余り飲んでいた珈琲を吹き出しそうになる。
「あら、私の検討違いだった?」
少しだけむせて唐之杜を見つめる。
「…ばれてました?」
* * *
一係の人たちと離れたくない。仕事である以上、そんなことを言ってはいられないことくらい朱は分かっているつもりだった。
だけどその日が近づくにつれてその思いが膨らんでいった。
もうこの際告白でもしちゃえばいいじゃない。正直それができるのは唐之杜くらいだと思う。
「常守」
「っ!?…狡噛、さん」
なんとなくベランダに出ていた朱に声をかけたのは悩みの種である狡噛だった。
「…どうした」
「…別にどうもしていませんが」
「宜野座さら異動の話を聞いた」
「そうですか」
「そうですかってあんた」
「だってどうにもならないじゃないですか」
「やっぱりな」
狡噛ははぁ、と息を吐いた。
「あんたの事だから考え込んでると思ってな」
「執行官の嗅覚ってやつですか」
「あんた本当にどうした?おかしいぞ」
「ほっといてください!」
「っ、常守!」
頬に伝う一筋の液体。
朱は、泣いていた。
狡噛は走り去ろうとする朱の腕を掴んで引き留めた。
「っ、やめてください、」
「逃げてどうする?」
「…ひきとめないで、ください」
辛いのは私だけですから、と。
「辛いのは、あんただけじゃない」
うしろからそっと筋肉のついた両腕が伸びて、朱を包み込む。
朱の涙が止まるまで離すことはなかった。
* * *
「…話さない方がよかったかしら」
「結果的に良かったんじゃないの」
「あ、あはは…」
唐之杜のラボに集まるのは朱、六合塚、そして唐之杜本人。
狡噛に慰められた後、朱は予定通り三係に異動する筈だったのだが。
「まさか監視官の異動が全くの白紙になるとは思ってなかった」
「本当ですよ…私何のために…」
「あら、慎也くんのためじゃ…」
「唐之杜さん!」
朱の異動が取りやめになった。
裏で唐之杜が宜野座に朱の事を話したようではあるが、三係の監視官の退院が早まったらしい。理由はそんなところだ。
三人がたわいもない雑談をしている最中、朱の腕についている端末が鳴った。
確認をとると狡噛からの電話。
「弥生、監視官は執行官とデートみたいよ」
「そっ、捜査です!」
二人がお互いの気持ちに気がつくのはまだ先らしい。
13*02*17
強制終了!狡朱なのに狡噛くんが全然でてこないって…後ろから抱きしめるっていいよね!
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