桜の花が落ちた

桜の花が揺れたの続編?です
読まなくても結構ですが、一応続き物にはなっていますので











サワサワと木々が揺れて擦れる音
風と共に漂ってくる桜の香り
それらを感じながら

ああ、もう春か、

そう、小さく呟いた


「…骸様」

控えめな声と共に正装に身を包んだ凪が入ってきた

「おかえり、凪」

彼女は今日、大学を卒業した沢田綱吉に会いに行っていたようだ

「彼は卒業できたのですか?」

数年前の彼は本当に落ちこぼれていたから、アルコバレーノの教育力には驚かされる

「はい」

相変わらず控えめに答える彼女に僕はおもむろに近づいた
只管不思議そうに見上げてくる彼女にニコリと微笑んで

「可愛らしい髪飾りですね?」

と、髪に絡んでいた桜の花びらをとってやる

「っ!…あ、ありがとうございます…」

顔を紅くして俯いてしまう凪は、彼女を見付けたあの日から代わりが無くて思わず笑ってしまった

「…あ、…ぅ、」
「?」

凪は僕が笑っているのをみて、つられたように嬉しそうに微笑んだ
その笑顔だけは、彼女を見付けた日とは違っていて
長い時間をかけて少しずつ、自然に笑えるようになった凪は今では本当に愛くるしい笑顔を見せるようになっていた

そんな凪が、意を決したように真っ直ぐに僕の目を見て、何かを伝えようとし始めた

「…っっ…」

だが、中々言葉を発しない凪
彼女は元々控えめで、常に一歩引いている、そんな性格だった
自分の意思を伝える事はするけれど、だけどそれは何時だって他人の為のもので
自分の為に自分の意思を伝えることはしてこなかった

そんな彼女が今、きっと自分のために自分の意思を伝えようとしている

「クフフ…凪、僕は今とても気分が良い…何でも言ってごらんなさい」

まぁ、大方の予想はついていた

「……骸様、私…あの、ボスに一緒に来るかは、私が自分の意思で決めろって…言われて、その……」
「はい」
「…っ、……あの、私…」
「はい」
「…これからも、ボスを護りたい…ボスや皆と一緒に、居たいです…!」

言って直ぐに合わさっていた視線は逸らされ、気まずそうに顔を下げる凪
あぁ、此処まで自分の意見を僕に言えるようになったのか、この娘は
これも、きっとあの甘すぎる男の影響なのでしょうか

「えぇ、そう言うと思っていました」

なるべく優しく、落ち着いたトーンで話してやると、驚いたように凪が顔を上げた

「ですが、1つだけ確認をとっておきたい」
「?」
「お前は元々一般人だ、普通に生まれ、普通に育った、普通の女の子……それなのに僕の勝手でお前はいきなりこちらに巻き込まれた……凪、抜けるなら今だ…僕も脱獄し、自分の体で自由に動けるようになった…もうお前の行動を縛り付けたりはしない…辛い事も、痛いことも、苦しい事もたくさんあったでしょう…今、抜けないのならばこれからもっとたくさんそう言う思いをしていく事になる…マフィアのボスを護るというのはそういう事だ……お前の、自由だ凪」

最近になって、少しだけ後悔していた
凪を、この世界に巻き込み、利用したことを

昔はこんな感情持っていなかった
自分以外の人間は道具、その程度にしか考えていなかった
犬や千種だったそうだ

…だが、やはりとでも言おうか、あの甘すぎる男、沢田綱吉
彼と出会い、何度か関わるうちに僕は酷く人間らしくなったと思う
僕としてはとても微妙な気分で、認めたくもない事実である
…が、こんな風に彼等を思う自分
そんな自分がいるこの世界

そんな今がソレ程悪いものに思えないのも事実で
犬と千種、凪…僕を慕って付いてくる彼等が笑っていると僕も笑いたくなる
幸せだ、なんて感情とっくに欠如していると思ったが存外まだ残っているようだった

そんな今の僕だからこそ、僕は凪を巻き込んでしまった事を後悔していた
あんないたいけな少女をこんな汚い世界に巻き込むべきではなかったのではないか、と

だから僕は今一度問おう
全ての鎖が解けた今、僕は彼女を縛り付ける理由も、力も無い
凪がどちらを選択しても、僕は何も言うまい
さぁ、どうしますか?

「私はここを離れたくありません」
「!」

即答、だった
正直、少しは迷うかと思っていた

本来なら、キャンパスライフを満喫している筈の彼女は友人と遊んだり、サークル活動をしたり…一番楽しい時期であろう筈なのに
彼女はソレらを一切と言って良いほどせずに僕達に尽くしてきた

彼女は、これからもそれで良いというのだ
彼女の瞳に迷いは無く、今までに無い強い意思を持っていた

「クフフ…お前は変な娘ですね」

本当は少し、抜けて欲しかった、なんて
本当に僕は人間らしくなったものだ

「…沢田綱吉、彼は不思議な男だ…もう少し、彼等といるのも悪くは無い」

そう、もう少し、もう少し
彼女や犬、千種と共に”ニンゲン”をやるのも悪くは無い

「骸様、…じゃぁ」
「ええ、行きましょう…イタリアに」

そう言うと、彼女はとても柔らかく、嬉しそうに微笑んだ







「…そういう事です、沢田綱吉」
「!?」

ゆっくり扉に近づき、ソレを開けると其処には気まずそうに笑う彼

「ボス…」
「あー…ゴメンクローム…ちょっと骸と話がしたくて来たんだけど」

ワシャワシャと頭を掻きながらクロームに謝罪を述べた彼は不意に僕のほうを向いて、

「ありがとうな、骸」

そう、笑った

相変わらず、この男は…


「気まぐれですよ…この季節は、そういう変な気を起こしやすい季節だ」
「…あぁ、もう春だな」

いつのまにか床には、いくつモノ桜の花びらが落ちていた



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