隣に居てください

雪が降った
真っ白い結晶がその景色を占める中、私は妙に不安な気持ちになった

彼があまりにも違和感なくその景色に溶け込んでいたから
彼を見失ってしまいそうで、彼が今にも消えてしまいそうで

「雅治と雪景色って凄く似合う」
「…急に何言ってるんじゃ」

ハァ、と吐き出す息が白い
そんな、空気が凍るような朝
雪のために自由参加となった朝練のおかげで、私は久しぶりに彼氏と登校している
いつも一人で歩く長い道のりも、大好きな彼と一緒なら…

…なんて、そんな可愛らしい乙女な思考は持ち合わせていないため
さっきから寒い、まだここかぁ、…なんて文句しか口に出していない

そんな流れでのこの言葉に彼、雅治は凄く怪訝な顔をした

「雅治って雪みたいだよね」
「はあ?」
「髪も、肌も雰囲気も、…雅治は白いんだもん」
「…髪は銀じゃ」

やっぱり意味がわからない、とでも言う様な視線を送ってくる雅治の後ろ
嫌でも目に入ってくる雪景色、
眉を顰めている雅治の頬は寒さで紅く染まっているけど、

「…やっぱり消えちゃいそう」

雅治がいなくなって、しまいそう

雅治のコートのポケットの中で繋がれた手に力を込めてみるけど、この不安はどうも消えてくれない
雪なんて、嫌いだ

「俺は雪じゃなか、溶けて消えたりせんよ」
「へ?」

力を込めた手に応えるように強く握り返された手は暖かい
不意に聞こえたその声も、言葉も暖かい
いつもは表情なんかあんまり変えないくせに、私を安心させるように魅せるその笑顔も暖かい

…ああ、ずるい

「お前を置いていなくなったりはせん」

だから、そないに不安そうな顔せんで
そう言いながら雅治は私の頭を撫でた

ずるい、ずるいよ

「っ、…泣く程だったんか?」
「まさ、はるがっ…急に優しく…っ、するから!!」

ポロポロと零れてくる涙を優しく指で掬っていく雅治は苦笑いを浮かべて、
そりゃ悪かったの、なんてまた優しい声で

雅治はとても優しい
格好良いし、気配りだってできる
私を良く見てくれるし、…本当に私には勿体無い位の彼氏

だから、

「雅治、いなくならないで」

怖い

雪のように、
いつかは溶けて消えてしまう雪のように
雅治がいつかいなくなってしまうんじゃないかって
私の手が届かない、そんな所に

「…ほんま、普段は適当なくせに、急に汐らしくなっていらん心配をするよな…千夏は」
「…」
「…俺がいなくなるってのが不安の種なら…そうじゃの、ずっと手を握っておきんしゃい、そしたらずっと一緒じゃき」

ギュウ、と更に力の込められた手が熱い、…熱い

雅治は今、ここにいる

「…絶対、離してあげないから」
「こっちのセリフじゃ」

雅治は雪とは違う
雅治は急にいなくなったりしない

見失いそうなら、手をつないで置けばいい

彼はそう言ってくれた
大丈夫、

「雅治、ありがとう」
「くくっ…困った姫さんじゃの」

ニカ、と笑った彼は良く見れば雪景色とは不釣合いな気がした
結局は気の持ちよう、ってことで、

これからも隣に居てください


(貴女はずるい、私の心をかき乱してばかり)









(ちょ、ここ女子トイレ!!) (手、離さんって言ったじゃろ?) (それはそれ!これはこれ!!)


[ 11/21 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -