嗚呼、イライラする

嗚呼、イライラする

応接室の窓から見えるその風景に紛れ込むイレギュラー

七海千夏

本来ならこの学校にはいない筈の人間
1週間の間、この並盛中に教育実習生としてやってきた女

明るい性格とその整った容姿が相俟って、彼女の存在は直ぐに全校に広まった
今も、帰宅する生徒を見送りに出た彼女の周りには人が集まっている

嗚呼、イライラする

群れを成すあの草食動物達にも、その中心にいる七海千夏にも、イライラする

「っ!?雲雀さん!?」
「すいません!!」
「か、帰ろうぜ!!」
「先生さよーなら!!」

ガラ、とこれ見よがしに窓を開けて草食動物達を睨みつけると、群れは直ぐに散った
一人残った七海千夏を最後に見ると彼女はニコリと微笑んで校舎に入っていった
すっかり人気の無くなった景色をもう一度一瞥して窓を閉める

そして机について書類整理を再開させる
さて、あと何秒で来るかな?

…10、……15、…20……25ガチャッ

「恭ちゃん!」

来た


応接室に入ってきたのは先程まで前庭にいた七海千夏

「何かな?七海センセイ」
「学校では”千夏ちゃん”って呼んでくれないの?」

クスクスと肩を揺らす七海千夏は僕の従姉
家が近い事もあって昔から何かと一緒にいる事が多かった
まあ、一方的に付き纏われていただけだけど

「そんな呼び方、もうとっくの昔にやめた筈だけど、千夏」
「あれ、そーだっけ?恭ちゃん」
「君もいい加減その呼び方やめたら?」

恭ちゃん、そう呼んで僕の頭を撫でる千夏の手を払うと僕は書類を片してソファに移動した
千夏がいるのでは気が散って仕事所じゃないからね

「恭ちゃんは恭ちゃんだもん」

千夏は僕よりもいくつか年上だ
正しい年齢は覚えてないけど、教育実習生として教師の真似事が出来る位の年齢にはなったのだろう
僕は昔からソレが気にくわない
僕の目の届かない所で他の男と、なんて考えたくも無いからね

でも、”センセイ”は昔からの千夏の夢だから…我慢する


「僕をそんな風に呼べるのは君位だよ全く」

”恭ちゃん”
実はこの呼び方が気に入っているなんて絶対に言わない
この呼び方は他の奴等と被ることがないから
千夏だけの、特別な呼び方、なんて

「…で、何しに来たの」
「ん?用は無いよ、ただ恭ちゃんに会いたくなっちゃって」

そう言うと千夏は僕の隣に腰を下ろした

「ワオ、随分可愛い事を言ってくれるね」
「なーんて、ただ避難してきただけ!ここ安全だし、静かだしね」
「…咬み殺す」
「あはは!」

千夏の笑った顔は可愛い
元々童顔で幼く見えるその顔が更に幼くなる

無邪気で純粋、僕とはまるで正反対
だからこそ、僕は求めるのかもしれない
欠陥だらけの雲雀恭弥という人間の穴を埋めてくれるピース、七海千夏を

「…少し寝るから、膝、貸してよ」
「…はいはい」

時折みせる妙に大人びた表情が好き
お姉さんぶってるのはちょっとムカツクけど、素直に綺麗だと思うから

「おやすみ、恭ちゃん」

僕の頭を撫でる小さくて柔らかい手も好き
僕が眠る時に決まって口ずさむその歌も、歌声も好き

千夏の事が、好き


「…おやすみ、千夏ちゃん」
「!」

少しだけ目を開けて彼女の表情を見て口に弧を描かせる

「真っ赤」
「…恭ちゃんが急に昔みたく呼ぶから…」
「うん、わざと」
「からかわないでよ、もう」

ここが日本でよかったと思う
だって、四親等以上は結ばれても文句は言われないでしょ?
…まぁ、そんなの関係無いけど





嗚呼、イライラする

この溢れる気持ちを君に伝えられない
こんなにも好きなのにね

でも、もう少し待つよ
昔からの君の夢が叶うまで

もう少し、待つよ


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