殺し屋の幸せ

ザシュッ

「がっ…!!」



「……あーぁ」

敵の喉にナイフを滑らせている途中でポケットの中の携帯が震えた

「…日付変わっちまった」

12月22日0:00にセットしていたアラーム
それが鳴ったという事はつまりそういう事

「誕生日一番始めに聞くのが誰かもわからねぇ男の断末魔とはなー」

ベットリと血の付着したナイフを男から引き抜きながら思う

”まぁ殺し屋だし、しょうがねぇか”と


「かーえろっ」

標的だった男はとっくの昔にその辺で死んでいる
殺した記憶が無いからきっとアレだな
キれてるオレの圏内に入っちまったんだろ、うん

ああ、今回もつまらない仕事だった
なーんにも楽しくねぇの









「ボースー…って寝てるよな…しゃーねぇ隊長起こすか」

本部に戻って真っ直ぐボスの執務室に向った
…まぁこんな時間に起きてる訳ねーか

ってことで、あのアホ隊長の所に行こうかと踵を返した瞬間

「ウ゛ォオイ…帰ったかベル」
「っ…」

直ぐ後ろにロン毛がいた
ボスの執務室の前だからってんな本格的に気配消すんじゃねーよアホ

「報告書は明日で良い…すぐに部屋に戻れぇ」
「はあ?」

あん?何意味不な事言ってんの
報告書は直ぐに出せっていっつも怒鳴ってる馬鹿は何処のどいつだよ

「良いんだよ、今日は特別だぁ」
「!」

”特別”その言葉で全てを把握した
…うわ、先輩にんな事気にかけられるとか…

「キッモー」
「あ゛ぁ!?」
「……ま、けどサンキューな…スクアーロ先輩」

だけど、たまには良いかもな、なんて思うオレも相当キモいな




”絶対日付変更前には帰ってきてくださいね?”

部屋に戻るまでの道のり、不意に過ぎったのは昨日のあいつの言葉
結局帰って来れなかったな、なんて苦笑を漏らしながら
この血塗れの隊服をどうするか考える
洗濯で落ちんのかよこれ…ああ、とりあえずシャワー浴びてあいつの所に
そういや隊服明後日も使うよな…あいつ、待っててくれたりすんのかな…隊服発注させなくちゃダメか……


ガチャ

「っ」

色んな事を考えていたら気付かなかった
自室に人の気配があったなんて

「…千夏」

オレの部屋に態々ローテーブルを持ち込んで
たくさんの料理とケーキを並べて

自分はソファに凭れて小さく寝息をたてている
そんな姿にすら愛しさを覚えるオレは相当だな、なんて

スヤスヤと気持ち良さそうに眠る千夏にタオルをかけてやって
オレは返り血に汚れた体を洗う事にした

こんな汚い格好じゃ千夏を抱き締める事も出来ねぇし、
飯やケーキを食う気にもなれねぇしな


「…ったく、本当に待ってたのかよバーカ」

眠ってしまってはいるけど、オレの誕生日を祝うために千夏は準備をしていてくれた
…顔がニヤけそうだ

ああそういえば、さっき携帯を見てみたら何通かメールが届いていたな
ルッスにフラン(こいつは馬鹿にしてきただけだけど)、そんで沢田に獄寺
ああもう本当に馬鹿ばっかだ




”まぁ殺し屋だし、しょうがねぇか”

…オレは殺し屋なのにさ
生まれてきたこの日を祝ってくれる奴等がいるんだな
…なんて、オレは誕生日でテンション上がってるガキかよ

まあ強ち間違いじゃねぇけど


「あー…気持ちぃ」

体中にお湯をあてて血を流す

「…ヤッバ」

今のオレ、相当キモい
顔がニヤけっぱなしだっつーの



「ベル、お帰りなさい…誕生日おめでとう」
「起きたのか」
「うん、タオル有難う…寝ちゃってごめんなさい」
「あー気にすんなって…食おーぜ」
「はい!」

あーもう、キモい
柄じゃねぇっつーの

「ベル」
「あん?」
「生まれてきてくれて、ありがとうございます」
「…おう」

柄じゃねぇけど…


あー、オレ、今すっげぇ幸せだわ








(千夏、誕生日プレゼントは?) (…食事じゃ、ダメですか?) (えー) (冗談です、御揃いのリングを買いました) (…え、プロポーズ?) (んあんでそうなりますか!) (だってオレ今幸せだもん) (意味がわかりません)

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