一人の少女

並盛町
そこはとても平和な町
深夜2時、こんな時間にもなれば町は静寂に包まれる
そんな平和な町
だからまさか、この町で、今、自殺をしようとしている子供がいるだなんて、気付かないだろう
いや、実際気付かなかったのだ、一人の少年除いては









そこは並盛町の外れ
かつて栄えた凪川家の邸宅の上、少女は其処に立っていた
身なりは酷く、その質素なワンピースも、彼女自身も傷だらけだった
彼女の、その大きく可愛らしい筈の瞳は虚ろに半開き状態
そこに光は宿っていなかった
その様子はまるで、この世の全てに絶望した、そんな感じの表情だった

「お父さん……お母さん…」

小さく動いたその形の良い口元は父親譲りだった
サラサラと夜風に靡くその明るい紫色の髪の毛は母親譲りだった

だが、その、世界で最も愛しい二人はもういない

「今、私も、逝くね」

うわ言の様に呟かれたその言葉は風と共に消えていった


「逃げろ!」
父はこう言った

「…生きてね?」
母はこう言った

二人は、少女を助けるためにこの世から去った
全ては、少女のために

少女は誓った
そんな二人のために生きよう、と
生きて幸せを掴もう、と

だけどもう、限界だった
誰かを傷つけ、不幸に陥れ続けるのは、もう嫌だ
あまりにも過酷な生活を送り続けるには、少女は幼すぎた
心も身体も限界、だから彼女は……

「本当はね、もっと色んな事を見たかった…聞きたかった、知りたかったんだ…でも、それはもうムリそうだから」

それはまるで天の父と母へのメッセージ
ポロポロと零れる涙は止まる事をしてくれなかった

「さようなら」

溢れる涙に濡れた唇で、小さく紡いだ言葉はこの世への別れの言葉

今、会いに、行くね

足をゆっくりと動かし、ゆっくりとその身を宙に投げた
一気に少女を包む浮遊感
頬を伝っていた涙が急速に乾いていく

おちていく、ゆっくりと


力強い笑顔で自分を抱き上げてくれる優しい父
愛しさ溢れる笑顔で自分の頭を撫でてくれる暖かい母

少女の頭に浮かぶのはいつかの日の優しく、暖かい思い出
最期に流れる走馬灯があの二人との笑顔の思い出でよかった

少女はゆっくりと口元に弧を描いた




やがて少女の身に訪れる強い衝撃












ドサッ





「大丈夫!?」
「…え、」






少女は、生きていた













――助けて、……応える者はいない
      少女は涙を流した……一人の寂しさと、これから起こる悲劇に恐怖して
                少女の心は、一人だった――




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