度重なる偶然

「テニスはもうやってないよ」

そう言った彼女の顔は隠しているつもりだろうが、酷く悲しそうに歪んでいた

「は?どういう事だよ」

いち早く我に返った幸村がそう言った
お姉さんの様子からして、この事については触れない方が良い気がするけど、そんな事は少しも気にしないのが我等が部長幸村精市だ
っちゅーか、さっきから危うかった敬語がついに消え去った

「……肩、壊しちゃったんだ」
ゆっくりと右肩に触れて、お姉さんは笑った
あんなに楽しそうにテニスをしていたのに、…きっと、凄く凄く好きだっただろうに
どれだけ辛かったのだろうか
なんて、俺はやけに冷静に考えた

「…で、さっきの質問だけど、その後私病気もやっちゃってね…去年なんだけど…入院してたら単位足りなくなったからもう一回二年生!……あ、これ内緒ね?」

人差し指を口元に持っていき、歯を見せて笑うお姉さん
俺の前から消えてしまった後、お姉さんはどれだけの思いをしてきたのだろう
こんな話を聞いてしまって、少ししんみりとしてしまった空気の中、そういえばずっと静かだな、と赤也を見てみれば
赤也は一人で勝手に唸っていた
どうかしたか、と聞こうかと思ったが正直今はどうでも良いなと思いました、まる

「ん、赤也どうかしたのか」

参謀…今の俺の微妙な思考時間を返せ

「あ、いや…その、真咲、先輩っスか?俺とどっかで会ったことあります?」

…またか、と思った
そういえばさっきブンもそんな事聞いてたの
…どんだけ偶然を重ねる気じゃ

「へ?」

当の本人はさっきまでの雰囲気はどこへやら、弁当を黙々と頬張りながらアホ面しとった

「あ、赤也もかよぃ!?」
「丸井先輩もっスか?」

どっかで、なんだよなー…、なんて言いながら二人は無い頭を捻っている
お姉さんは弁当を食べ終わったらしく、カバンを漁ってデザートなのか知らんがチュッパを取り出していた
そして直ぐにソレを口に入れ嬉しそうに顔を綻ばせる
…何か、無邪気な所は全く変わってn 「「あーーっっ!!」」 …なんじゃ

突然大声をあげたのは言わずもがなブンと赤也で、二人の視線の先にはチュッパを咥えるお姉さん
声にびっくりしたらしいお姉さんは口に入れたばっかりのチュッパを噛んでしまったらしく、あ゛えぇー…、などとよく分からない声をあげていた

「思い出した!チュッパくれたお姉さんだ!!」
「俺も思い出したっスよ!チュッパくれたお姉さん!!」

…なんか、お姉さんの名前が”チュッパくれたお姉さん”みたいな言い方だな、と少し笑ったら、ソレを見た参謀が凄い勢いでノートに何かを書き込んでいた……なんじゃ

ちゅーか二人共なんじゃ、餌付けでもされたんか

「何、丸井と赤也は餌付けでもされたの?」

まさか幸村(魔王)と考える事が同じだとは思わなかった、括弧の中が大事じゃよ

「違ぇよ!!」
「違うっすよ!!」


聞いても無いのに、二人は昔話を始めた
まあお姉さんが思い出せてないみたいだし、黙って聞くことにした








昔、ブンが小学生だった頃の話だそうだ
ブンは一人で公園で遊んでいたらしい
そこにお姉さんが来て色々あってチュッパをくれたらしい


…って、 「随分説明がアバウトだな」 じゃよな、参謀

その参謀の言葉にブンは視線を泳がせた

「だ、だってそれだけだし…」

ボソボソとバツが悪そうに言うブン
おいおい随分わっかりやすいのう
絶対何か隠してるナリ

「あっ、思い出したかも…アレだよね、公園で泣いてた子でしょう?弟が生まれてお母さんがかまってくれなくなって、つまんなくって喧嘩しちゃったって…」
「うわぁああぁぁあああ!!!!!!!!」

お、お姉さんが全部教えてくれた
ブンの反応からして間違っていないのだろう
つーか、ブン…随分可愛かったんやのう

「丸井はママが大好きなんだね(笑)」
「括弧笑いやめろょぉおおおっつーかあんたも言わなくていいだろいぃいぅわぁあああ!!!」

あ、ブンが壊れた

「で、そっちは赤也君だね…お姉ちゃんに髪の毛馬鹿にされて泣いてた」
「まさかの被害」

お前等泣きすぎじゃ
…しかしこうなると、

「柳生とジャッカルはそんな偶然無いのかい?」

…さっきから幸村や柳と考える事が同じ過ぎて自分が怖い

「俺はねーな、そもそもこっちに来たのが遅かったしよ」
「柳生は?」
「…私は存じていますよ、彼女を」

今までずっと黙っていた柳生だが、…おお、本当に凄い偶然じゃの
しかし、何か嫌な顔してないか?こいつ

「へぇ、柳生も泣いていたのかい?」

幸村の言葉に視界の端っこ方でブンがビクリと肩を震わせたのが目に入った

「彼女とは…一時期同じ小学校に通っていました」
「は?」

柳生、何がおまんをそこまで不機嫌にさせているんじゃ
同じ学校に行っていた偶然にも驚いたが、俺的にはそっちのが気になる
いつも表面だけはあんなに紳士ぶっているくせに、おい、素が出てるぜよ


「…柳生?……ピロリン?」
「その呼び方はやめて下さい未来永劫に」

お姉さんの言葉に間髪いれずに返す柳生はニッコリ笑っちゃいるが、その後ろには何か黒いモノが蠢いていた
ついに柳生も黒属性の仲間入りか?



「ピ!ロ!リ!ン!!!!!!!!」

どうやらそのあだ名は復活したブンのつぼに入ったらしい
幸村も盛大に吹き出してるし、赤也も爆笑してるし……

柳生のオーラがどんどん酷くなっている


「おお、爆笑だよピロリン良かったね」
「何も良くないですよ」

そんな会話を聞きながら参謀はやっぱり物凄いスピードで何かを書いていた
おいジャッカル、そろそろそいつ等を黙らせとくれ
こんな柳生見とうない







「…で、何でピロrくっ…っ……ピロリンなんだい?」

幸村、笑うか話すかどっちかにしんしゃい

「小学校の時、クラス対抗ドッヂボール大会ってのがあってね…やぎゅ…ピロリンのクラスと当たった時、事もあろうかピロリンが私の顔面にボールを当てたの…それにムカついてそう呼んでやった」
「私はその時謝りましたし、その後菓子折りを持って母とお宅まで謝罪をしにいった筈です」
「私の心の傷は癒えなかった」


…とりあえず色々つっこみたいんだが、幸村やブン、赤也はまた笑い出すし、参謀はまた何か書いとるし、真田は”うむ、礼儀がなっとるな”とか訳わからん所で関心してるし……チャイム鳴ったし


「次数学だろい、仁王宿題写させろ」
「はいはい」

チャイムと共に各々が弁当を片付け教室に戻る準備を始める
俺も教室に戻るか、と他の奴等に続こうと立ち上がったとき

「で、…仁王は?」

幸村が俺だけに聞こえるように言ってきた

「お前が転校生であるアノ人…しかも女と仲良くなる訳なんてないよな、だけどお前はこの場に大人しく座っていた…テニスの話の時、あの女お前の制服の裾、掴んでたよね…お前も”偶然”があるんだろう?オレ達よりも深い…」

…良く見とるな…おぉ、怖い恐い

「なーんにも、ただ近所に住んでた時期があるってだけじゃよ」
「……ふーん?」

幸村の煮え切らないような声を聞きながら俺はゆっくりと階段を下りていった







(”偶然は”本当に偶然か)(それともそれは)(必然なのか)

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