動き出した物語

『号外!2−C仁王雅治はホモだった!?』

「・・・。」
え、何これ…えー…なしてこうなった。

朝練を終えて教室に向かっている途中、
こんな張り紙っちゅーか、校内新聞を見つけた。

…いやいや?違うぜよ?
皆してそんな目で見るんじゃなか。

早々に面倒くさくなった俺は小さく溜息をついてその場から立ち去ろうとした、が

「仁王君!これ本当?」
「ちょっと雅治何これ?」

たちまち女共に囲まれて身動きが出来なくなった
少し離れた所でブンと赤也と幸村が大爆笑しているのが見えた

「…あいつ等…」
助けて欲しい、切実に…。











「あ゛ーっ…朝から散々だったぜよ」

あの騒ぎを何とかやり過ごして教室に辿り着いた頃には俺はもうへとへとだった
ほんっっと疲れた、誰も助けてくれんし

「マジお疲れ仁王」

ニヤニヤと笑いながら話し掛けてくるブン
お疲れ、だなんてよく言うぜよ

「つーか、何がどうなってあんなんなったんだろうな?」
「全くじゃ、誰があんな嘘を記事にしたのか、調べなきゃいけんのう」
「程々になー」

まぁ、正直他人にどう思われようが関係ないし、興味もない
…が、あんなに騒ぎになって、こんなに疲れる嘘はもうゴメンじゃ

…寝よう、疲れた、うん寝る、それが一番じゃ
HRが始まる?そんなん知らん、俺は寝る。





―夢を見た。
それは俺がまだ小学生だった頃の事

まさ君!!
そう、笑うのは昔近所に住んでいたお姉さん
栗色のウェーブがかった長い髪の毛を風にフワフワと揺らしながら走ってくるその手にはテニスラケット

ああ、そういえば俺はそのお姉さんに憧れてテニスを始めたんだっけか、と思い出す

今日も勝ったよ!
お姉さんの口から勝利以外の結果を聞くことは滅多に無かったから強かったんだと思う
俺は、そんな、好きなことを精一杯楽しめて、いつも強く笑っていられるお姉さんに憧れた…大好き、だった

だけどお姉さんは何も言わずにどこかへ行ってしまった



「仁王、お前恋愛する気ないの?」
「何じゃ突然」
「お前、彼女作ろうともしないからさ」

お、話が飛んだの
これは二日ほど前の幸村との会話じゃな
部活の休憩時間に水道場で顔を洗っていた所急に話し掛けられたんだ

「…ま、興味ないからの」
「え、女に?」
「……おん」




………。
……あーっ…もしかしてこれか?
このときの会話を誰かに聞かれてたんか?
俺ホモ説、この会話が原因か!?
幸村の所為じゃー…



…―





「起きろ仁王!!」
ガスッ
「っ!?」

痛い
頭に無視できないっつーか、無視したらいけないような衝撃を感じてしょうがなく目をあける
するとそこには、怒りに顔を引きつらせた担任と、困ったように笑っている見知らぬ女がいた

「真咲ー、こいつが仁王な、んでここがお前の席なー」
「はい」

真咲…?誰じゃ?

゛真咲風花゛
ゆっくりと視線を上げると、黒板に綺麗な字でそう書いてあった
…転校生、か

チラ、と席に着いてカバンの中身を整理している真咲を見る
なかなかの美人だと思う

ゆるいウェーブがかった栗色の髪の毛を背中までのばし、
二重のくっきりとした琥珀色の瞳、筋の通った鼻、整った口元

うん、これはかなりレベル高いんじゃなか?

「…?よろしくね、仁王君…?」

俺の視線に気付いたのか、真咲はキョト、と不思議そうにこちらを見つめながらそう言った

「…おん」

…ま、こいつがどれだけ美人でも興味はない
結局俺は、あのお姉さんに未だに恋をしているのかもしれんのう
確か一個上だった筈だ、今頃何処の高校にいるんじゃろうか、
きっと彼氏の一人や二人、いるんだろうな

…そんなことを考えながら俺は再び眠りの体勢についた


「俺丸井ブン太な!シクヨロ!」

ブンは俺の斜め前、つまり真咲の前
早速真咲に話し掛けとるようじゃ、相変わらず人懐こいのー

「真咲風花です、宜しくね」

「・・・」

なーんか、真咲って他の女とは違うの
ブンに話し掛けられたら大体の女は声のトーンが微妙に上がるんじゃが…
真咲は話し掛けられた事で寧ろ落ち着いたというか…
ここまでブンを意識しない女は初めてじゃの

「ところで風花さぁ、」

あ、もう名前呼びなんじゃな

「俺とどっかで会った事ねえ?」
「へ?」
「あ、いや…何でもねえ…なーんか、初めましてな気がしなくてよ」

ブン、それ口説いてるようにしか
「こーら丸井、いきなり口説いてんじゃねーぞー」
ほら言われた。

「ちげーっすよ」

ドッと笑いに包まれるクラス
さーて、今のこの出来事で反応した馬鹿な女は何人かの

「丸井君、私、前もこの辺りに住んでたこともあったから…その時に会ってたかもしれないね?」
「おっまじかよぃ!」

クスクスと笑みをこぼしながら質問に答えた真咲は…って、アレ?
真咲、風花…?
何だ、この変な感じ

「うん、小学生の時ちょっと神奈川にいて、東京に行ってまた戻ってきたの、私父さんの転勤でたくさん引っ越したから」
「へぇ〜!」

たくさん、引っ越した……

「ところでちょっと聞いてもいいかな?」
「おうっなんだ?」
「仁王君の下の名前って…何?」

は?…どうしてそんな事を聞くんじゃ

「雅治だぜー…確か」

確か、てブンお前

「まさ…はる…」

俺の名前を復唱する真咲は何処か思案気で、気付けば俺は伏せていた顔をあげ、彼女を見つめていた
何じゃろう、衝動的ってやつ?
どうしてこんなにグチャグチャ考えてるのかすらわからなかった
けど、もう少しで解ける、そんな気がした

「もしかして…まさ、君?」
「っ!?」

ほら、解けた

「雅君、なの?」

大きな目を更に見開いて俺を見つめてくるその顔は確かに

「お姉さん…?」

゛お姉さん゛やった



(止まっていた時間が)(今やっと、)(動き出す)

[ 3/6 ]

[*prev] [next#]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -