誕生日の迎え方
2013/06/09 17:35

「ねぇ骸、今日って、さあっ、6月9日…だよ、ね?」
「んっ…そう、ですね……それが、なにかっ?」
「あんたのっ…誕生日、じゃん……はぁっ」
「誕生日?…っく、そういえば、そうでしたっ…ね!」

はぁ、と息を一つついて漸く落ち着く
僕等の周りには只々血の海が広がるばかり
ぐちゃ、足を踏み出せば聞こえる耳障りな音と感触
漸く終わった、いくらなんでもこれは敵が多すぎだ…いくら僕とクラのペアだとはいえ流石に疲れる
などと、心中で沢田綱吉への文句を垂れていると不意に背中に衝撃を感じた

「…クラ?」
「殺しの最中に日付変わるとか、…今年は何にも出来なくてごめんね」
「…クフフ…僕がそんなこと気にする男だとおもってるんですか?…でも、どうせなら前から抱きしめてくれた方が嬉しいですねぇ」
「…やだ、こんなトコで盛られたくないもん」
「盛られたくないって…」

ギュウ、と手の力を込めながらそんな事を言うクラに苦笑いをこぼす
盛るつもりも毛頭ないが、…まぁ確かにこんなトコ、ではある
視線を少しズラすだけで視界に入ってくるのは血、血、血
普通の精神なら数秒とて見ていられない光景だろう
残念ながら、というべきか僕等はとっくに慣れてしまったが

視線を背中に向けクラの返り血の一切浴びてない髪に触れる
髪の毛にだけら返り血がつかないよう気をつけているらしい彼女の髪は一切の絡まりもなくスルリと指が通る
サラ、と流れる髪を後ろ手に弄んでいると唐突に背中の温もりが消えた

「クラ?」

振り向けばクラは目を瞑りながら力をためていた
ふ、と灯した炎を匣に注入して雲蝶を展開し蝶で幻覚を構築、死体と血の海を隠していった

「大丈夫なんですか?お前もかなり消耗しているはずですが」
「…だから、すぐに済ますよ」
「?」

気付けば今まできていた血塗れの服も消え、汚れ一つない服をまとっていた
それはクラも同じで、景色もいつのまにやら見慣れた僕の部屋になっている
ゆっくりと微笑みながら近付いてくるクラにとりあえず微笑みを返して行動を待つ

「毎年言ってるけど、あんたが生まれてきてくれて良かったよ。あんたと出会えて、あんたと愛し合えて、…良かった。愛してる、ずっとずっとこれからも。生まれてきてくれてありがとう骸」

スルリと腕が首に回ったかと思うと次の瞬間には口元に温もり
チュ、軽いリップ音をたて離れた彼女はもう一度微笑んで、

「っ、クラ!」

崩れ落ちた

「…ったく…お前は…」

徐々に綻んでいく幻覚を眺めながら彼女を腕に収める
かなり消耗していたくせに、こんな高度な幻覚を構築して……

「クフフっ…恥ずかしくなる位なら最初からしなければ良いものを…」

腕の中で静かに眠る彼女の額にキスを落とし、ゆっくり帰路につく
気恥ずかしくなるのがわかっていたから、気を失うレベルの幻覚をわざと作った
恥ずかしくなるなる前に意識を落とした、そのことを気付いていたなんて…

「きっと言わない方が良いのでしょうねぇ…」

全く素直じゃない彼女を、それでも愛おしいと思う
生まれてきてくれてありがとう、だなんて…きっと僕に一番不釣合いな言葉
それでも毎年そう、心から言ってくれるのは……

「こんな誕生日の迎え方も、悪くない」



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -