心地よい風
2013/06/09 16:11

嗚呼、桜の花びらが落ちていく
ヒラヒラ、ヒラヒラ
どうやら僕はいつの間にか精神世界にきてしまっているらしい
…しかしどうして、復讐者から解放された僕にとってもうこの世界は不要であるというのに

「……骸様」
「…嗚呼、やはりお前でしたか……クローム」

いつの間にか控えめに後ろに居た凪に全て納得する
この空間は彼女が創り上げた幻覚空間
この僕が幻覚であると気付けないほどに巧妙に創られた…

「また、腕をあげましたね、クローム」
「…骸様の、おかげです……私が、今こうして生きているのも…笑っていられるのも、力を手にいれこんな事が出来るのも…全て、骸様のおかげなんです」

凪が手をかざせばそこにはケーキと紅茶が用意されたテーブルセットと…

「骸しゃん!骸しゃんはここれすよ!」
「骸様…」
「んもう!待ちくたびれちゃったわ!骸ちゃん早くこっちにいらっしゃいよ!」
「ししょー早くしてくださーい食べちゃいますよー?」

ああ、どうして僕の心はこんなにも絆されてしまったのだろうか
昔の僕では考えられない…こんなことで、

「…嬉しい、だなんてね」
「?…骸様…?」
「あぁいえ、なんでもありませんよ。…行きましょうか、凪」
「はい」

僕の好きな紅茶に甘いチョコレート菓子、ケーキにはハッピーバースデーの文字、そして
笑顔で迎えてくれる仲間達
嗚呼、

「おっめでとうございます骸しゃん!!」
「…おめでとうございます、これからも貴方のために…」
「おめでと、骸ちゃん大好きよ
「おめでとーございまーすナポーししょー」
「おめでとうございます、骸様……生まれてきてくれて、私達に出会ってくれて…ありがとうございます」

…バカみたいだ
これでは、沢田綱吉を笑えないではないか
この子達が大切だ
愛おしいと思ってしまうまでに、この身をかけて守りたいと思える存在
なんて僕らしくない…

「…クフフフ…ありがとうございます………良いですか、一度しか言いませんよ」

僕らしくない、ついでにたまには伝えてみようか
実験施設にいた頃とは見違える程に成長し、ひたすらに僕を思ってついてきてくれる犬と千種
僕の都合で生かして、僕の都合で戦わせ危ない目にあわせ、それでも僕を慕い微笑みかける凪
本当に使い捨ての駒でしかなかったのにそれでも尚僕と共にいる事を選んだM・M
未来での記憶もなしに急にこちらに放り込まれたのにも関わらず強くなる事に弱音を吐かないフラン
大切な、僕の仲間達

「…僕についてきてくれてありがとう、…お前達で良かった。これからもよろしく頼みます」

偽る事のない心と笑顔で
年に一度…いや、数年に一度位は素直になろう
そうすることで、この子達のこんな顔が見れるなら

「嗚呼、とても心地よい風だ…今日はとても良い日ですね」

紅茶を口に含みながら、

涙でグシャグシャの犬、
珍しく目を見開き放心する千種、
鼻を真っ赤に目に涙を溜める凪、
顔を真っ赤にして切ない顔をするM・M、
誰よりも驚き固まるフラン

彼らを見て、僕は静かに笑った




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