賢兄的同一性確立論 | ナノ


賢兄的同一性確立論



何時も俺の方が僅かに早かった。
朝目覚めるのも、敵の気配に気付くのも、夜寝入るのも――そして、この世に生を授かったのも。

呪われた忌まわしい血を引き継ぐ一族の中でも、俺達は周りの双子に比べ、一際似ていた。
まだ自我同一性【子供心で居たいと言う願望】が確立していない幼き頃は良く互いの顔を引っ張り合ったり、ガキの悪戯宜しく落書きしたり。
まるで自分の半身を見ているようで、とても面白可笑しくて。

周囲の大人からも散々「仲の良い兄弟」だと言われてきた。
きっと、弟と共に過ごさなかった日なんて無いんだと思う。

けれどやはり、何をするにも俺の方が僅差で早かったんだ――…。


もう数年前になるか。
珍しい血を求めて他里の忍に集落を襲われた時も、別に「この血があるからいけないんだ」とは感じなかった。

特有の強さは忍者として誇れる事だったし、何より双魔の攻が有る双子と無い双子では兄弟同士の親近感も違う。
そう言う意味でも、俺達は本当に仲睦まじかった。

忍の才を開花させたのも、兄である俺の方が少しだけ早かった。
一族の長の教えが良かったと言うのも有るんだが…、やはり何より俺達の連携は族の中でもピカイチだった。

だから、襲撃して来た輩を全部血の海へと流し、クナイを放って辺りを見回した時には絶句したもんだ。
才能と言うのは時に恐ろしい。
まだ年幅行かなかった俺達は敵と味方の判別も付かなかったのか…、それとも――。




「良い目をしているわね…貴方達。」


聞き慣れない低い声音が鼓膜に響く。
先に俺、俺に続いて弟も背後を振り返ると、外見だけでは性別の見分けが付かない一人の大人が立っていた。
声で男だと理解はしたが、蒼白の肌にはその艶のある髪が良く映えていて、思わず兄弟揃って目を奪われたくらいだ。


「ふふ、見ていたわよ…。まだ幼いのに中々やるじゃない。」


多くの人間の血痕が付着し、未だに狂喜と言う名の興奮を抑えきれずプルプルと震える掌をそっと冷えた隻手で包まれる。
右手に俺、左手に弟の手を緩く握り、目線の高さを合わせてしゃがみ込んだ邪な瞳は一抹の期待に溢れていた。


「私についてらっしゃい…今のこの感覚を忘れたくなければ。」


最初に俺、次に左近の肯定的な――文字通りの「二つ返事」だった。


大蛇丸様の配下で暗躍をし始める頃には、まだ集落に居た頃には遠い未来だと思っていたアイデンティティに悩む時期がやって来た。
大人はそれを思春期と一纏めに呼ぶらしいが、血筋のせいもあって身体構造を共有する俺達の苦悩を一言で片付けられるのには随分腹が立った記憶がある。





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