木ノ葉丸×多由也
《多由也が里を抜けたことに気付いた木ノ葉丸が後を追うところから始まっています。》
酷い雨のせいで視界が霞む。
「多由也さん!」
ぬかるんだ地面に足を奪われながらも必死に叫んだ。ずっと昔から大好きな、あの後ろ姿に。
彼女が足を止めた。こちらを見てくれもせずに、突き放される。
「ウチがどこ行こうと勝手だろ…着いてくんな」
「そんなわけには行きません、コレ」
「…」
「アナタもオレも、木ノ葉の忍です。里を抜けようとするアナタを見過ごすことなんてできやしません…なにより、オレ個人としても」
振り向いてほしかった。でも、現実はやはり残酷だ。
「ぬるいんだよ」
「…え?」
紡がれる言葉は、日々募らせていたのだろう不満と暴言。
「あんな平和ボケした腑抜けた里なんざ、消えて無くなればいい」
その瞬間、プツンと何かが切れた。
「…あの里は、」
じじいが、叔父ちゃんが、先輩が、先生が、ナルト兄ちゃんが、オレたちが、
「木ノ葉隠れは皆が命を懸けて守ってるんだ!それを侮辱するのはいくら多由也姉ちゃんでも許せねーぞコレェ!!」
頭に血が上る。目端に水が溜まり、落ちる。
「おおおおお!」
雄叫びをあげながら、多由也姉ちゃんの背中に突進した。彼女の肢体が雨の中を飛んだ。
一瞬見えた顔は笑ってるような気がした。地面に落ちると思いきや、多由也姉ちゃんの体はひゅうっと更に真下へ落ちて行く。
その瞬間、彼女が元から崖の淵に立っていたことにようやく気が付いた。人形のように動かない体はそのまま地面に激突し、赤く染まった。
急いで向かうももう遅く、雨と流れ出る血のせいでうまれた赤い池の中に彼女は居た。全身の骨は折れ、あちこち内出血を起こしたその体は既に冷たく、もう何もかもが手遅れだと物語っていた。
ただ泣き叫んだ。抱き締めた。名前を呼んだ。何も返して貰えなかった。何も伝えられなかった。
それでもこの大事な想いは、一生手放せそうにはなかった。
「もういいのかい?」
カブトが問う。
あの里はぬるい。それ故に幸せで居心地がいい。でもウチは血にまみれすぎた。
「ああ」
あそこにいたらもっと幸せがほしくなる。
もうあの里には居られない。