7 | ナノ


こどもごころ



岩に少量の土が被さった地面の上を歩く。理由は、多由也が完全な岩場に行くのを許さないからだ。一歩でも足を踏み入れようものなら倒れてしまう勢いで反対側に引っ張られる。
何こいつ、すごいクソ真面目なんだけど…。普段ならそう思っていたんだろうけど、今回はそうもいかなかった。

なんでこんなに近いのさ…!!!

多由也は岩場の反対、つまりボクの右側にいる。ただいるだけでなく、ガッチリとボクの右腕を上半身全てでホールドしているのだ。
ここまで多由也が警戒しているのは、完全にボクが悪かった。

ボクは神童と呼ばれた忍(忍者学校生)だ。そのボクをただの女の子が捉えておけるわけがない。
そう思ったボクは、すぐにその場を離れた。追い付けないだろうと踏んでいたら、多由也は真っ直ぐボクに付いてきた。その瞬間、ようやく多由也も忍だったことに気付いた。

でも、追い付けそうにはないな…。

多由也もチャクラを使って追いかけてくるけど、微妙にボクの方が速い。

兄さんが向かった方と逆の方向に転換すると、妖しげな笛の音が耳から入ってきた。
…ボクの身体は、動くのを止めた。
幻術をかけられたことに気付いたけど、動くことは叶わずにもとの位置まで連れ戻されたのだった。

「運よく穴にははまらなかったが、次はもっとむごいの使うからな」

そう注意されて、今に至る。

さっきからずっと心臓がうるさい。右に顔を向けることができない。顔、熱い。
ボクはずっと左側に目をやってるけど、花を探してるのではなくただ多由也の視線から逃げてるだけだった。

「……」

「……」

気まずい沈黙が続く。ので、取り合えず話題を振ってみた。

「あ、あのさ!多由也、忍者だったんだね?」

「だったらなんだ」

多由也の返事はそっけない。でも、会話になってる。沈黙じゃない。

「言ってくれればよかったのに!でも、忍者学校では見たことないな。これから通う予定とか?」

忍者学校の生徒年齢には結構ばらつきがある。一般的には六歳前後からだけど、ボクは四歳の時点で入学していた。

「…おまえには関係ない」

「……」

せっかくの会話を盛り下げられたことに少しかちんときて視線をやると、どこか暗い顔で俯いている多由也がいた。
これ以上触れてほしくないというのを、子供心に直感した。

「……ねぇ、多由也」

静かに話しかけると、顔を上げて、大きな栗色の瞳がボクを捉えた。

「…えっと、さ。やっぱりちょっとだけボクたちも探しにいかない?」

「…だめだ」

「にげないから」

「だめだ」

兄さんの時と同じ押し問答…にする気はなかった。
自由な左手で手首を掴み、ボクも真っ直ぐ多由也と目を合わせる。

「絶対」

手に力が入る。

「絶対にげない。ほんとだよ」

ただただ真摯に言葉を紡いだ。多由也が、口を開いた。

「……手」

「え?」

キョトンとしていると、痛いと言われてようやく気付いた。慌てて放したけど、多由也の手首は赤くアザになってしまっていた。

「ご、ごめっ…」
「わかった」

つい出そうになった謝罪の言葉に被せられたのは、兄さんへの裏切りを示す言葉だった。

「ウチも一緒にいく。でも、なにかあったらすぐ引き返す…いいな?」


 



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