こどもごころ
「この先は地面がくずれやすいなどの理由で、あぶないから近寄るなと言われてる」
道中、多由也はこちらも見ずに淡々と説明をする。
「一度ちかくを通ったことがあるが、草の一本もはえていなかった…と、思う」
不明瞭な語尾に疑問を持ちながらも、険しくなってきた道を進む。確かに周りには緑がどんどん薄くなっていた。
正直もうくたくただけど、このふたりには弱みを見せたくなかった。溜まった疲れに気付かないフリをして、腿を上げて地に下ろす。その繰り返しだ。
舗装されていない急な坂道は予想以上に体力を奪った。
ふと、湿気が強まってるのを感じた。
「…霧か?」
兄さんが警戒しながら小さく呟く。上に登れば登るほど、霧は濃くなっていく。
不意に多由也が足を止めた。
「ここだ」
多由也を中心に、ボクらは横に並び立った。
「……!!」
始めて見る景色に息を飲んだ。
水の国には水分が多い。故に、自然も多い。だが、ここにはそれがない。
いつもの風景から草木を抜いただけの、土で覆われた場所を想像していた。岩場と言っても、川や湖の縁…あの岩壁を地面にしただけのようなものだと思っていた。
生命を感じられないその大地はきっと、霧で霞むその向こうにまで続いているのだろう。
でこぼことした地面や壁には、多由也が言っていた通り大小の穴が目立っていた。
「水月」
「!!」
命の無い世界は、とても淋しい。
兄さんに話しかけられることで、ボクの思考は中断を余儀なくされた。
「なに?」
極めて普通に聞き返すと、少し驚かれてしまった。どうやら隣で多由也と話してたのに、気付かなかったことが理由らしい。
「もう少し周りには注意しておけ。何があるかわからないだろ」
「もー。説教はあとででいいでしょ!で、なんのようさ?」
語気が強まったので、取り合えず用件を聞いてその場をしのいだ。兄さんは少し不満気だったけど、言葉を続ける。
要約するとこうだ。
ここからは流石に危険だから兄さんひとりで薬草を探しに行くということ。ボクと多由也はここで待機。多由也曰くこれ以上進まなければ陥没する危険は低いから、探すのならその範囲で。
文句を言うと、真剣な眼差しを向けたまま言葉を放つ。
「多由也ちゃんはまだ残ってもいいと言ってくれてる。部外者を巻き込んで申し訳ないけど、お前のお目付け役を頼んだから、絶対にこれ以上進むなよ。…二時間経ったらここに戻ってくるからね」
兄さんは有無も言わさず言い去った。霧に溶けるように消えていくその姿を見送り、ムスッとしたまま多由也を見やる。
「…なにさ、お目付け役って」
「言葉通りの意味だ。おまえがこの先にいくのを阻止する」
すらすら紡がれるそれに「ふんっ」と鼻息で返事をする。無論、納得してないという意味だった。