5 | ナノ


こどもごころ



少女の名前は多由也といった。
お腹を空かせたボクたち兄弟は、現在多由也に連れられて、山の中腹辺りで食事を摂らせて貰っている。どうやら多由也はこの山に詳しいらしく、食べれる実のある場所へと案内してくれたのだ。
…ボクの羞恥心を代償に、だけど。


「そういえば…多由也ちゃん」

兄さんがポーチをごそごそと漁り、一枚の紙を多由也に見せる。

「この植物、見たことないかな?」

多由也が覗き込むそれには、白い花の絵が描かれていた。それが今日のボクらの目的だ。

「この国はどこも湿度が高い…その為緑も多い。この植物は岩場などに生えるくせ、湿った場所を好むものだから、どうも見つからなくてね」

「そーそー!ここに来るまで岩肌すら一度も見なかったよ」

兄さんの説明に同意を示す。
珍しい薬草の採取。霧隠れからかなり離れてるためCランクに位置するこの任務を、兄さんは一人で請け負っていた。任務を受けれない忍者学校生のボクは、ただ付いて来ただけだ。
ただ付いてくるのも大変だった。まず兄さんに頼んだ。却下。駄々をこねてみた。却下。
それでもボクがしつこいもんで、兄さんは現実を見せようと上層部に訊きに行った。無論駄目だろう、と思ったら、まさかの許可が下りたのだった。
ボクは実は神童と呼ばれてる。戦うことは無さそうな内容だが、実際に任務に同行させてみるのも良いんじゃないかとのことだったそうだ。

結果、渋々受け入れた兄さんとふたりで任務に当たっている。あくまでもボクの心意気では、だけどね。

「岩肌すら、は言い過ぎじゃないかな?」

ボクの言葉を聞いた兄さんが、小さく笑う。

「お前が落ちた湖の側面に草は茂っていたか?」

「ぐ…」

兄さんは揚げ足を取るのが巧い。というか、隙やミス全般を見付けることに長けていた。

「でも!あーいうとこは例外でしょ!フツーに地面にはなかったじゃないか」

「…まあ、このあたりに土や岩がかおを出してるとこなんて少ないしな」

ボクが慌てて反論すると、多由也が言葉を続けてきた。
彼女は紙を兄さんに返す。

「わるいが、こんな花は見たことがない」

「そっか」

もともとそんなに期待してなかったのだろう。あっさりと紙を受け取って、ポーチに仕舞う兄さん。
一方ボクは、正直残念だった。もしこのまま見つからないのであれば、波の国という所まで出向かなきゃいけない可能性があったからだ。さすがにそれは面倒くさい。

「でも、はえてそうな場所なら、思い当たる箇所がある」

憂鬱なボクをよそに、多由也は再び口を開いた。

「…いってみるか?」

小さく首を傾けながら提案をする多由也。
兄さんと目が合う。どちらともなく、力強く首を縦に振った。

「もちろん!」

「案内を頼めるかな」


 



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