こどもごころ
「君は?」
兄さんは警戒を和らげ、女の子に問い掛けた。
「……」
その子は問い掛けに応じず、ボクと、ボクの手から落ちた赤い実に目をやった。
「…死にたかったんだったら、じゃましたな」
「!!」
その言葉は、この実が有毒植物であることを意味していた。
兄さんが真剣味を帯びた声で再び問う。
「この実には、毒があるんだね?」
「ああ」
女の子は簡潔に答える。そこまで聞いて、漸くボクらは警戒を解いた。
「ありがとう」
兄さんが彼女に微笑む。
「危うく弟を失うところだったみたいだね…ホラ、お前も」
促されて、その子の前に出る。
先程の実よりも綺麗な赤髪と、大きなつり目がお似合いの、可愛い女の子だった。
「……」
助けられるとか、カッコ悪い。
お礼を言うべきなのに、真っ先に浮かんだのはそんな言葉だった。
「………」
再びのくだらない意地で言葉が出てこなくて、ただ目の前の女の子を見つめていた。悔しさからか、顔に熱が集まるのを自覚していた。
「言いたくないなら、べつにいい」
くるりと反転する彼女。
「あ……待っ」
グギュルルルルルルルルルルル
慌てて呼び止めようとした声は、自分の腹の音に掻き消された。何度主張しても無視され続けたボクのお腹は、今日一番の大音量で訴えることにしたようだ。
女の子はキョトンとした顔をこちらに向けていた。後ろからは兄さんの苦笑いが聞こえる。
「………!!」
今度は別の理由で顔が真っ赤になった。
穴があったら、是非とも入りたかった。