3 | ナノ


こどもごころ



大きな山湖から数十メートル高くに位置する吊り橋。

「兄さん早く!おいてくよ!」

初めての遠出で浮かれてるボクは、老朽化したその上を走っていた。

「あまり走らないで。この橋、かなり古い…って水月!!」

「うわあぁっ!!」

子供とはいえ、走る振動には耐えられなかったらしいその橋は、ボクと数枚の板切れを宙に残して真っ二つになった。嫌な浮游感がボクを襲う。

死んじゃう。

思わず目を瞑り身体を硬直させたボクを襲ったのは、水ではなく壁との激突だった。

「いだっ」

思い切り後頭部を打って上…実際には下を見ると、木っ端の波紋で揺らめきながらも、太陽と、その手前で頭を押さえてる自分が目に入った。

今度こそちゃんと上を見ると、兄さんがボクの脚を掴んでいた。
助けられたんだ。

「まったく…帰り、遠回りするけど文句無いよな?」

そのまま引っ張られ担がれて向こう岸。案の定怒っている兄さんに、素直に謝れなかった。

「…うん。ない、けど」

不満気に呟くボクに、兄さんは溜め息をついて笑ってくれた。フサフサとした草の上に腰を下ろす。

「…頭、打ってただろ。ホラ、見せて」

「…うん」

兄さんに見えるよう体を反転して俯く。髪を掻き分けられて、冷たい塗り薬と兄さんの手が心地好かった。

「イテテ…ボクも自然に水化の術使えたらなァ。コブなんて作らないのに」

ボクはこの頃まだ未熟で、意識しなきゃ水化の術は発動できずにいた。

「その場合、コブはできなかっただろうけど、今頃湖の中だっただろうね。いくらオレでも水は掴めないから」

「あっ…!!」

「?」

指摘もそうだけど、それ以上に大変なことに気付いた。
ポーチの中を探る。でも、いくら探っても何も出てこない。

「………」

「う……」

無言で視線を浴び、小さく声が漏れた。忍具用のホルダーや刀、水は無事だったものの、腰に付けていたポーチの中身は全て落としてしまったみたいだ。
刀の手入れ用具、地図、巻物、そして食料品は湖の中…。

「…もう少し開け閉めが面倒なポーチにする必要があるね。ひっくり返っても中身が落ちちゃわないように」

「……」

困ったような兄さんの笑顔に、何も言えなかった。






ギュルルルルゥ…

「……」

「……水月」

道なき道を進むこと、かれこれ三時間。ボクのお腹は盛大に空腹を訴えていた。

「…兄さん、男に二言はないからね」

そもそもは一時間近く前、ボクのお腹が小さく鳴り始めた時のことだ。

兄さんは自分の分の食料を分けてくれると言った。…んだけど。

「へーきへーき。ごはん落としたのはボクの責任だし、それをふたりでじゃ足りないでしょ!」

正直大分前から空腹だったけど、ここでも頼ったらただのお荷物だ。それにまだこれくらいは耐えられると思った。

何度か諭されかけはしたけど、結局ボクが説得に応じることはなかった。

その後はボクのお腹が鳴る度にちらりとボクを視線を向ける。小さくはあるけど、兄さんのお腹も主張を始めていた。気にせず食べてと言ったけど、兄さんは自分だけ食事を摂ることを断固拒否。一切口をつけなかった。

「…こういうとこで意地を張るのは違うと思うぞ」

疲れたような顔で再び説得を開始する兄さん。言われても意地を張り続けるボク。

「だから、兄さんは自分の食べたらいいでしょ。ボクは、ホラ…」

近くの木に絡んでる蔦に、小さな赤い実がたくさん生っているのを見つけた。触るとほどよい弾力があって美味しそうだ。一粒摘まんで兄さんにも見せる。

「コレ、食べれそうだよ。ボクはこっちでいいから」

「知らないものを口にするな。毒があるかもしれないだろ」

兄さんの語気が少し強まった。説教に入るつもりだ。でもボクのお腹ももう限界だった。

「だいじょーぶだって、いただきます!」

止められまいと急いで口に放り込む。いや、放り込もうとした。

「痛っ」

横から鋭く投げられた小石が、ボクの左手に直撃する。掌から実がこぼれる。

「!!」

石と実が地面に落ちるより早く、警戒体制に入る兄さん。

「誰だ!」

顔をあげる。犯人と思われる、ボクと同い年くらいの少女がそこに居た。


それが君との出会いだった。


 



top
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -