復路の先は通行止め
多由也。お前なら、あの風景をどう捉えただろう。
『同じ釜の飯を食った仲とは思えない光景だった。忍具がぶつかる金属の音。体同士が擦れ合う鈍い感触。内臓が落ちるグロテスクな映像。闘技場に幾多の悲鳴が重なり、至る所からは血の噴水が上がる。乱れる呼吸。泣き叫ぶ者も居た。半ば半狂乱になって自害する者も。』
お前にも、同じように見えたのだろうか。…それとも、仲間を殺して心が瀕死になっていたお前に刃を向けた俺を、未だ心の何処かで憎んでいたりもするのかも…しれない。
忘れられない。あの時の多由也の泣き顔を。
それがお前の―何時もは強気な態度で隠している―本性だと知っているから。その日からずっと、俺はお前を何処か“そういう風な目”で見てきた。
“ああ、こいつまた無理して強がってるな”とか、“どうせ部屋では忍び泣いてたりするんだろ”、とか…。
「…と言うルートを通って、うちはサスケを連れ出す。それで良いか?左近。」
「……ああ、大丈夫だ。他に意見は?」
「俺もそれで大丈夫ぜよ。」
「同じく。」
「…決まり、だな…大蛇丸様の期待を裏切らないよう、頑張ろうぜ。」
「言われなくても分かってんだよゲスチン、リーダー格だからってでしゃばるな。」
「……、…あー…多由也って本当に…。」
大蛇丸様に課せられた、今までで一番大きな任務。無論、失敗は許されない。
なに…相手は平和ボケした木ノ葉の連中だ。火の意思が何とかなんて、そんなのは関係無い。
こっちは“屍を積み上げて出来たチーム”なんだ。別名、“何かを得る為に、何かを失ったチーム”とでも言うべきか。
俺達の根底からの(憎しみという名の)結束力は、そんな生温い物では無い筈…。
多由也。“力”と“強気さ”を手に入れたお前が失った物は、もはや俺にしか知られていない事なのかもしれない。自由?確かにそうだが、もっと大切な物。
力と強気さを引き換えに、お前は“自我”を失った。本当はか弱く脆い女、多由也。お前の失った物の代償はでかい。だからその分、この任務…失敗させる訳にはいかないんだ。
…何て、多由也曰く“リーダー格”だからこそ感じる責任なのか、それとも俺の個人的な想いなのか。…取り敢えず、今回のうちはサスケ奪取任務が終わるまでは、そっと心に秘めておこう。
「…あ?本当に?…何だよ、左近。」
「いや…気が強いなって…、改めて思っただけだ…。」
生きて還ろうな、多由也。必ず。