見えず聞こえず言えず(ゆうコッコ様) | ナノ


見えず聞こえず言えず


その事実を知った時は、固唾すら飲み込めないほど、息が詰まりそうになった。 オレをオリジナルとした呪印を持つ人間は、今や何人も存在している事は知っていた。そう聞かされていたからだ。

最も身近な人物となると親友の君麻呂に、大蛇丸の時期器であるサスケ。他多数。

その多数の中に、あの女の子が含まれていただなんて。 …いや、よくよく考えてみれば、おかしい話ではないのかもしれない。あの子は君麻呂の部下なのだし、天の呪印を持つ彼が率いる隊が呪印持ちのメンバーで構成されていたとしても、何ら不自然ではないのだ。

あの時、この呪縛から漂う特有の懐かしさに、気付けなかった。そんな事に気を配る余裕など無かったのだ。あれから早一ヶ月。まさか、こんな形で再会する事になろうとは、数十分前のオレは知るよしも無い。

そもそもいつも檻に閉じ込められているオレが、何故こんな実験室に居るのかと言うと、色々と訳がある。少し色褪せた無機質な壁と睨めっこしながら、オレは待ちぼうけを食らっていた。




数時間前、オレの自由を閉ざす重い石の扉は開かれた。こんな時間に君麻呂は面会に来ないし、大蛇丸の実験の時間でもない。スケジュール以外でオレを呼び付けるという事は、またあのヤブ医者、新しい実験薬の開発でもしたか。

そう思考を巡らせながら気だるい腰を上げ、足首に括り付けられた枷を引きずりながら、ドアの方へと歩み寄った。案の定、扉の隙間から眼鏡の奥の眼が怪しく光った。

「やあ、重吾くん。お休み中に悪いね。今から僕と一緒に来てくれるかい?」

「……また新薬投与の実験か。」

「いや、違う違う。今回はそれよりももっと急ぎの事なんだ。呪印のオリジナルの君に協力して貰わないと、音隠れは重要な戦力を失う事になるかもしれないんだよ。」

…何だ、そんな事か。と、最初は興味すら惹かれなかった。オレを閉じ込め良いように扱い、他国を敵に回すこの腐れた里の命運がどうなろうが、関係ない。

「この前、君が医務室に連れてきてくれた、あの赤い髪の女の子の事は覚えているね?あの子だよ。」

「………?」

額に汗が滲んだ。脳内が吹っ飛んだかのように頭の中が真っ白になり、里の命運だとか、腐れた音隠れだとか考えていた己は一瞬にして無くなった。

「た…ゆや?」

「そう、よく覚えていたね。多由也だよ。今朝から彼女の呪印の調子がおかしくてね…。」

カブトが事の経緯や多由也の容態を話し始めるも、きっとその一割程度しかまともに聞けていなかったと思う。掻い摘んで要約すると、多由也は呪印を持っている事。今朝から謎の高熱を出し、呪印も過敏に反応を示している事。もしかしたら、呪印に飲み込まれ、自我を失う手前かもしれないという事。そして、オリジナルであるオレの助けが必要だという事。

勿論、選ぶ答えは一つしか無く、カブトに連れられ、現在この無機質な壁に囲まれた実験室に居るという訳だ。


カブトが医務室から多由也を連れて来るまでのほんの数分が、とてつも無く長く感じられた。

また前回のような事が無ければ、面と向かって再会するのは難しいと思っていた。…が、こんな形で再び彼女に触れる機会を与えられるとは。喜んで良いものなのか。いや、あの子は今苦しんでいる。何て不謹慎なんだオレは。しかし心の何処かで期待している。あの子の―…多由也の知らない所で、オレはひょっとして正義のヒーローになれているのかもしれない、と。

“多由也はオレの事を知らない。オレが初めて実験室の前で彼女を見掛けた事も、里で任務帰りの彼女と擦れ違った事も、殺されそうになっていた彼女を救った事も、オレが彼女の温かい頬に触れた事も――…何も知らない。もしまた偶然彼女と出くわしたとしても、多由也がオレを知る事はきっと無いだろう。”

高望みせずとも、陰ながら彼女の支えになれればそれで良い。今回だって、密かに救ってやれば良い。そんな事を繰り返し考えていた矢先、ギィと錆び付いた扉が開かれる音がした。

「待たせたね、重吾くん。」

胡散臭い焦りの色を浮かべながら入室するカブトの腕の中には、肩で息をする例の赤髪の少女。ドキッ、と心臓が跳ね上がった。

成る程、確かに呪印の過剰反応が見られる。オリジナルだから何となく分かるが、きっと無茶をして呪印を酷使した結果だろう。

複雑だ。目前で苦しむ相手は、このオレが元で作られた烙印のせいで、こんな目に遭っているからだ。

綺麗な顔には苦悶の色が浮かび、整った顔を歪める多由也。白い頬は熱のせいか赤く染まっていて、体全体も火照っているように見える。にも関わらず、寒いのか否か、ぶるぶると小刻みに震えている…あまり良い予感はしない。

こんな形で彼女の顔を再び見る事になろうとは予想もしなかったが、また多由也の知らない所でお前を救えるなら、オレは出来る限り力になりたい。退屈な檻生活に一つの楽しみをもたらしてくれた多由也が、オレは好きだから。

「…容態は?」

「そうだね、結構熱がある。呪印周りを中心にして熱くなってるから、呪印が原因なのは間違いないだろうね。」

寝台にそっと仰向けに寝かせられる多由也。意識の有無の狭間に居るのか、時折半分程目を開ける時があるも、自分が何処にいるのか、誰と居るのか、などは分かっていなさそうだ。ただ、ぐるぐると視界が回り、果てのない水底に沈んでいく気分・・・なのかもしれない。

「解熱剤や鎮痛剤は投与していない。特別なケースだし、一応こんな彼女でも女の子だから、副作用でも起こされたら厄介だからね。」

くいっと眼鏡の淵を持ち上げ苦笑するカブトを瞥見し、ベッドの上に横たわる肢体に近付いた。

「…それで…オレに何が出来るんだ?」







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