重吾と





「なんでウチがてめーの寄り道に付き合わなきゃいけねーんだ…」

不機嫌だ、と顔に張り付けながら、彼女は愚痴をこぼす。それでもちゃんと僕の後ろを歩いているのは、着いてくるよう命じたからだ。だけど断じて、僕がこの女と一緒にいたいからではない。

「今回の任務のメンバーが、たまたま君と僕だけだったからだろう…」
「んなことに突っ込んでねーよ、このゲスチンヤローが」

多由也の眉が、これでもかと寄せられる。苛ついているのはわかるし、その理由も知っている。だけど。

「はあ…」

まったく…

「君なんかの何処がいいんだろうね…」
「は?」





大蛇丸様の北アジト。僕の友人は、この人体実験場で生活を送っている。
看守室へ行き、彼の部屋の鍵を受け取ってから、多由也に話し掛けようと口を開いた。

「じゃあ多由也、君は…」
「わかってる、別室で待機してりゃいいんだろ。てめーは毎度毎度うるせーんだよ」

多由也は、大袈裟にため息をついて部屋から出ていった。相変わらず酷い言葉遣いだ。
控えめにため息をつき、先ほど多由也が出た扉を潜って閑散とした廊下を進む。目的地は言わずもがな、友人の元。




「重吾…」
「!!君麻呂か?」

部屋の前で名前を呼んだら、すぐに嬉しそうな声が返ってきた。彼女に対してもこうなら、もう少し穏やかに事を運べただろうに…。
このことはあとで言おうと心に決め、鍵穴に鍵を差し込んでいく。
重たい扉が開くと、鎖越しに重吾の顔が見えた。数ヵ月ぶりに見る彼は、また背が伸びたらしい。年々彼との差は開いていっている。

「久しぶりだな君麻呂…何ヵ月ぶりだろうな」

そう言い微笑みかけてくる重吾。だが悪いが、今回はあまり感傷に浸るつもりはない。

「ああ、久しぶりだ…。それはそうと重吾、君に言いたいことがある…」

僕がここに多由也を連れてきたのは初めてじゃない。ここを知っているのは、五人衆の内僕と多由也だけだが、それはただ、二人一組で組まされる相手が未だ多由也のみだからだ。大蛇丸様によれば戦法の相性が良い、というのが理由らしいが。

「…?なんだ?」

五人衆での任務後に寄らないのは、人数が多いと時間に支障が出るため。
そして多由也が待機している理由は、僕が重吾との会話に水を差されたくないからだ。ただ、戻らなければいけない時間になると、彼女はそれを僕に伝えに来る。その時に彼らは出会って。

「今日は多由也の誕生日だ…彼女にはいつも通り、別室で待ってもらっている」
「………ぇ」

その時に、彼は多由也に惚れてしまったらしい。…ああ、重吾の顔が赤くなっていく。それにしても、僕は何故こんなことをしているのだろう…。

「たっ…、多由也が…来てる、のか…!!!?」
「ああ」

大蛇丸様が多由也に「そういえばもうすぐ誕生日ね…」と仰っているところに居合わせてしまった僕が悪いのだろうか…。

「今日が、誕生日なのか…?」
「僕はそう聞いたが」

いや、それに反応して「ああ、確か3日後だったかい?」とカブト先生が日にちまできっちり言ったところに居合わせた僕が…結局、僕が悪いのだろうか。

「…君麻呂」
「なんだ?」

重吾が、赤いながらも真剣な顔つきで僕を見据える。

「…その、なぜそれを、オレに…?」
「………」

君の片想いが、あまりにもわかりやすかったからなのだが…。

「友人の恋を少し手助けしてるまでだよ…」
「…!!君麻呂…オレの気持ちを知っていたのか…!?」
「………」

気付かれていないと思っていたのか。まあ多由也は気付いてないようだしな…。重吾がそれに気付くことは困難かも知れないが。…しかし。

「そろそろ多由也が来る頃だな…」
「なっ!!?」

どうしよう、と繰り返す重吾。慌てるのも無理はないが、僕に質問を投げまくるのはやめてほしい。上手く手助けしてやれたかはわからないが、ここからは君の頑張りどころのはずだ。
そういったやり取りは、現在の話の中心人物、多由也によって終止符を打たれた。

「…君麻呂」

不機嫌な声が、薄暗い廊下に静かに反響する。時間の無いなか無理矢理ここに寄ったことと、重吾に会わなければいけないがために発生するであろう苛つきで、いつもよりトーンが低い。

「…!!たっ…多由、也…!!!!!」

瞬間。ガガガという重りを引き摺る音と共に、重吾が部屋の奥へと引っ込んでいった。この行動が多由也を苛つかせているというのに…。そうだ、さっき忠告しておくべきだったんだ…。チィ、と多由也が舌打ちする音が聞こえる。

「…時間だ、とっとと戻るぞ」

こちらを睨み付けながら用件を口にする多由也。だが、まだ帰るわけにはいかない。ここまでやったというのに諦めるのはどうにも腑に落ちない。どうやら僕は、大蛇丸様以外にも大切な相手がいたようだ…僕にも、意地はある。 

「その前に…重吾が君に、伝えたいことがあるそうだ」
「…?お前にじゃなく、ウチにか?」

重吾はいつも多由也が来た途端に隠れてしまう。予想外だったのだろう、いつもはキッと細められている眼が、大きく見開かれた。しかしそれも、一秒にも満たない出来事。

「…だけど、正直そうは思えねーんだが」

再び細められた双眸が、鉄の扉の隙間を見遣る。重吾は一向に出てくる気配はない。…これ以上僕にどうしろと…。

「…少し、待っていてくれ」
「ハァ!?何言ってやがる、これ以上時間を遅らせるつもりか!!」

少しと言っているだろう…。目線と若干の殺気をぶつけてやると、すぐに悔しそうに口をつぐんだ。そんな多由也を横目に、僕は扉に近づき、重吾を呼ぶ。

「…重吾」
「っ!君麻呂…!!」


彼は部屋の隅で膝を抱え、大きな体を縮め込ませていた。その体と反比例してか、重吾は少々気が弱いところがある。

「君にはもう少し、勇気というものが必要らしい…。彼女に、言いたいことがあるんだろう?」
「……っ!!!」

重吾の顔が歪む。惚れた相手と顔を会わすことすら儘ならない、気弱な自分を苛んでいるのかもしれない。

「………」

十秒ほどで、重吾の俯かれていた顔が露になった。…決心が着いたのだろうか。顔つきは真剣そのものだ。
重吾が扉に近づいてくる。ありがとう、と微かに礼が聴こえた。

「…多由也」

重吾が、震える声で彼女の名前を呼ぶ。顔は耳まで真っ赤に染まっていて、どれ程緊張しているのかが伝わってくる。

「……なんだ」

多由也も何を言われるか予想がつかないのだろう。若干緊張気味に、だがまっすぐに重吾を見詰める。正直彼がこの視線に耐えれるかはわからないが、無事、想いを告げられることを願おう。



「……っ

誕生日、おめでとう…!!!!」


恋路に付き合う此方も、案外大変なんだ。


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