ネジと





中忍試験本選への出場が決まり、一ヶ月の休息期間…もとい修業・調査期間を与えられたオレは、日向の集落からある程度離れた森にいた。
数ヵ月前から特訓していた絶対防御…「八卦掌回天」を完成させる為だ。
この技は体中のチャクラ穴からチャクラを放出し、そのまま回転することにより敵の攻撃をいなし更に白眼唯一の死角を補う…理論上は上手くいくと思うのだが、どうも回転速度かチャクラの放出量が足りないようでまだ完成には至らない。本来はそれを確かめるためにテンテンやリーに手伝ってもらうのだが、リーは意識不明の重体でテンテンは用事があるらしく現在一人で速度を上げるべく足腰を鍛えている。

地道な基礎運動と片足を軸にしての回転を繰り返し休息を取っていると、突如聴こえた音に動きが止まった。

笛の音だろうか…その美しく優しく、そしてどこか物悲しい旋律に心が休まるが、この音は近くに誰かがいることを表していた。だがしかし、もう少し聴いていたいのも事実だった。
リラックス効果によるものか心做しか体もいつもより回復しているように感じられた。
笛を吹く人物が忍者だった場合、此方の気配を感じ取っただけで演奏を止めてしまうだろう。普通なら確認か演奏のどちらかを諦めなければならない。

だが自分は違う。

(白眼!!)

音の出ている方向へと視線を飛ばす。この眼ならばここから動かずとも演奏者を見つけるのも容易い。

(…あいつか)

そこにいたのは一人の女だった。
倒木に腰掛け笛を吹くそいつは格好からして忍…それも他国の者だろう。
長い赤髪に閉じられた瞳、周りにとまった小鳥たちと奏でられる美しい音色によって幻想的な空間が広がっていた。



どれだけの時間その美しさに捕らわれていたのだろうか。気付けば休憩時間はとっくに終わり、日が傾き始めていた。チャクラ切れにより白眼が解かれる寸前に見えたのは、同じような格好をした男の忍だった。

「何をしてるんだ、オレは…」

結局今日は予定の半分もメニューをこなせていない。テンテン不在とはいえやることはあるのにだ。明日以降もこの調子であれば集中できそうにない、その時は接触を図ることにしよう。

そう心に決めたオレはなんとも言えない気持ちで帰路に着いた。



だが、その日以来彼女が来ることは無かった。おかげで特訓には集中でき、テンテンの協力もあって半月ほどで回天を成功させるに至った。あとはこれを実戦でもスムーズに失敗無く使えるよう体に慣れさせなくてはいけない。

順調な修行の合間、思い出すのはうちはサスケ、うずまきナルト、我愛羅、…そしてあの日のことだった。
休息の度にあの笛の音と彼女を思い返し心が癒えるのを感じ、最後に見た男を思い出しては苛立ちの様なものを覚えた。

またいつかここに来て笛を奏でてくれるかもしれない。来るかもわからないそんな未来を楽しみにしているような、もうここには来ないかもしれない未来に寂しさを感じるような、あの男に、或いは自分に悔しさを覚えるような、そんな喜びと不安がごちゃ混ぜになったような初めての感情が心を埋めていた。












その感情が何だったのかは今でもわからない。

だけど。



「……!?」

「…?ネジ、どうした?」

シカマルが緊迫した面持ちで問い掛けてくる。

「…いや、なんでもない」

任務中だ。私情に構っている余地はない。


「捕まえた」






その感情が何だったのかは今でもわからない。

だけど。

君が敵側であって欲しくなかった。


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