かたち






お前は最初は妻であった。

母を封じ、弟に肉体を任せたのち、考えに賛同してくれた最初のひとりであった。
寄り添い、生涯を共にしようと誓い合うも、子を産み力を失った身体は、その鼓動を止めた。



死んで、気付く。
お前も、残した子等を気にかけていることに。



お前は兄の妹であった。

暗がりに堕ちてゆく兄を止めようと必死に戦った。力及ばず、戦に巻き込まれ死んだ。


お前は弟の幼馴染みであった。

共に光を目指し、ふたりで兄を救おうと奮闘した。願いは叶わぬまま時は流れ、いずれ身体が朽ちた。


お前は兄の師匠であった。

闇に魅入られてゆく兄を、優しく光へ導こうとしたが、反発する兄に邪魔に思われ、殺された。


お前は弟の姪であった。

兄と弟が仲違いし続ける姿を見て、母の袖に掴まり涙を流していた。幼くして、大きな病にかかった。



ふと気付いた。お前が徐々にふたりから離れてゆくことに。



お前は兄の部下であった。

上司である兄の思想に納得できなかったが、力がないことを理由に諦め、ただ黙って命令に従っていた。反対勢力である弟に、胸を貫かれた。


お前は弟の行きつけの食堂で働いていた。

弟が仲間に大声で語る理想を影で聞いては、希望を信じ、夢に胸を膨らませていた。弟が命を落とし暫くして自ら首を吊った。



ふと気付いた。お前が徐々に闇に堕ちてゆくことに。



お前はふたりと違う派閥の頭であった。

できたばかりのその勢力は、まだ小さな芽の内に兄に潰されてしまった。目の前で何人もの仲間を殺され、心を壊した。



気付いたところで、何もできることはなかった。



…お前は、弟の敵であった。
…お前は、兄を闇へ誘おうとした。

お前は徐々に、ふたりから離れていった。
お前は徐々に、闇へ堕ちていった。

それでもなお、何かしらの形で、ふたりと関わっていた。
それでもなお、何かしらの形で、ふたりを見守っていた。


『   』

妻の名を呟いた。

『   』 『   』、

『   』 『   』、

『   』 『   』、

『   』

名を呟いた。お前の名を、順番に。

…『多由也』

名を呟いた。ワシがわかる、お前の最後の名を。

兄弟喧嘩は、おそらくこれで終わるだろう。
お前ももう、心配することはない。

ワシもじき消える…もしまた輪廻に戻れるようであるならば…次こそははちゃんと…四人で、長く、長く…






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