小説 | ナノ

の王子様と美しい姫君



※女装王子×蛙の王子という私得話




「父上、父上!」
「おお何だね、シルベス」
城内に響き渡る美しい声でシルベスは父を呼ぶ。可愛い子であるシルベスの声に、父である国王は緩む頬を引き締める事も出来ずにでれでれとしていた。
シルベスは一見ドレスの似合う美しい娘のように見える。ふわっふわの金色の髪に、あざやかな海をはめ込んだような碧い瞳。バラ色の唇に桜色した可憐な指。
ほっそりと華奢な身体はこの国のどの娘にも負けないほどの魅力があった。

けれど、男だ。

どうひっくり返っても男だ。
 
このシルベスという王子、昔から女の子のような格好や遊びをするのが大好きで、大事な時はきちんと男性の格好をしているのだが特に何もない時は女の子の格好がデフォルトだ。国王はとにかくシルベスを溺愛しているので、まあ女装くらいいいか!と(本当にいいのかと問いたくはなるものの)容認してしまっている。
そしてこのシルベス、女装好きの他にもう一つ問題があった。


「素敵なものを手に入れたんです」
「素敵なもの?」
シルベスが愛らしく小首を傾げた後に、すっと手を差し出す。
そこにいたのは。
「か、蛙・・・」
「ええ蛙です!んもう嫌がっちゃってかーわーいーいー!」
シルベスの手の中にいた蛙は、助けてと言わんばかりにもがいていたが、所詮蛙、望みは叶わずぐったりとしている。
その蛙は見た目はアマガエルが片手サイズまでに大きくなった感じだろうか。アマガエルなら可愛いよね、という人もちらほらいるけれど此処まで大きいとちょっと、と引くレベルである。

そう、シルベスは無類の爬虫類両生類好きなのだ。




「庭でボール遊びをしていたんですよ」

といっても男がやるような過激な奴じゃないですよ〜とシルベスは念を押してから話し出した。
お気に入りの可愛い花柄であしらったボールを、毬つきのようにして遊んでいたら手元が狂って池に落ちてしまったのだ。
王子だし金はあるんだからまた同じものを作ればいいという発想はシルベスには無く――一応一国としての王子の自覚はちゃんとあるのだ――、慌てて池を覗き込む。
「あー・・・ドレスじゃなかったら取れそうだけど」
ボール一つで兵士を呼ぶのも可哀そうだしなぁとシルベスは思い悩む。
すると、池からぴょこんと蛙が出て来たのだ。
驚いて目をまぁるくするシルベスに、
「あのボール、取ってきてやろうか?」
と有ろう事か蛙が喋り出して更に驚く事になる。でも、蛙の言った言葉はちゃんとシルベスの耳に入っていて、
「いいのか?てか取れるの?」
確かに蛙ならボールが落ちたところまで泳いで行くのには造作ないだろう、が。肝心のボールはどうやって運ぶのか、とシルベスが疑問に思い尋ねると、
「その辺は安心しろ」
蛙は無駄に男らしく答えてボールのところまで泳いでいく。
「・・・可愛い」
その姿はシルベスには大層愛らしく見えたようで、思わずうっとりと呟く。幸いにも蛙には聞こえていなかったようでボールの元まで辿り着いた。
そこからどうするのだろう、まさか押してくる、とか?あ、それすっごい可愛い、見たい!
シルベスは蛙が次に起こす行動を楽しみに見ていると、それは彼にとって想像の斜め上に行くものだった。
「え・・・?」

蛙は人間の青年になった。
見た目はあざやかな緑色の癖のない髪に、目の色は金色。しっかりと鍛えてある体躯で、全体的に男前な印象を与える。
で、多分全裸だと思われる、とシルベスは妙に冷静な頭で考えた。

「ほら、ボール」
大事なんだろ、と手渡してくれた蛙もとい青年にハッと気づき、シルベスは他の人間に見られないように彼を隅の方まで連れて行く。ちらっと確認したらやっぱり全裸だったので、哀れに思って汗をかいた時にでも拭こうかなぁと思っていた布を腰に巻いてやった。
漸く安全そうな場所まで引っ張っていくと、
「いきなり何だ」
と少し不機嫌そうに青年は言う。
「その台詞そのまんま打ち返してもいい?てか君って何者?」
何で蛙が人間になれるの奇跡なの?とシルベスが詰め寄ると、
「俺は・・・ずっと昔、魔女に呪いを掛けられて」
たどたどしく話し出した内容を要約すると、青年は昔はどっかの王子様だったらしい。で、ある時、彼の国に恨みを抱いていた魔女に呪いを掛けられ蛙にされてしまったと。
そして呪いの効果が薄まっているのか、今では一日一時間だけ人間の姿に戻れるらしい。
「へぇ、とんだ災難だね。あ、じゃあ私と同じ王子なんだ」
「・・・・・・王子?姫じゃないのか?」
シルベスの言葉に青年が怪訝な顔をして尋ねる。それもそうだろう、目の前にいるシルベスは何処をどう見てもお姫様にしか見えないのだから。
しかし、シルベスは慌てる事も恥ずかしがる事も無く、
「そう、女の子の格好するのが好きなの、似合う?」
とにやにやと笑いながら言い抜けた。
「ず、随分と変わった国だな」
「いいんだよ、ちゃんとやるべき事はやってるんだから。でも、君これからもうちの池に棲むの?」
「迷惑なら出ていくが・・・」
少し寂しそうに青年が言うものだから。
「てかいっそ私の部屋で暮らそうか!」
私蛙大好きだし、とにんまりと笑うシルベスに青年は唖然とした。




「という訳で、一時は逃げられたものの再び蛙になったこれを捕えて持って帰ってきました」

何と言おうと私の部屋に置きますので、と爽やかに愛らしい笑顔で言うシルベスに、国王はそうか、としか言いようがなく、
「まあ、シルベスなら大丈夫だろう、それにペットを飼うのは心の教育にもなる」
と一人納得している。
元より可愛い一人息子の願い――と言えるのかは甚だ疑問であるが――を無碍にできる筈もなく、どのようなパターンで来ようとも反対できる訳がなかった。


全体的にピンク基調のファンシーで可愛いお部屋は言うまでもなくシルベスのもの。
強制的に連れてこられた蛙はその光景に、
「やっぱりお姫様にしか思えない」
と眩暈がしそうになる。
「水槽はそこに置こうかな、可愛いガラス玉と水草いっぱい入れて・・・」
シルベスは蛙の棲みかをどう可愛く飾ろうか、早速計画を練っているらしい。
でも今日は私と一緒のベッドで寝てもらうけどいいよね、と不穏な事を呟くのを蛙は聞き逃さなかった、が、何も言う気にはなれず、そのままぐったりとテーブルの上で寝そべる。

そのまましばらく、二人は同じ部屋にいつつ別の行動をしていたが、
「そういえばキスをすると呪いが解けるっていうよね」
とシルベスが話しかけた。
「は?」
「でもキスはしてあげなーい」
だって蛙の君も可愛いし、とにこにこしているシルベスに蛙は、
「男同士でキスしたって呪いは解けないだろ」
と出来る限り冷静に言った。だが、次のシルベスの言葉に硬直する羽目となった。
「まあ、それ以上の事はさせてもらおうと思ってるけど」
語尾に音符マークでも付きそうなほど楽しそうにし、「何せ好みだからね、君の人間の外見と性格」
どっちの姿も美味しく頂けるなんて、君って素晴らしいよねとにこにこと言う。
「え、待ってくれ、それって」
「あれ、何か赤くなってない?もしかして満更でもないとか・・・ふふふ、明日の夜が楽しみだね」


その後、蛙が元の王子の姿に戻れたかどうかは・・・定かではない。
けれど少なからず不幸せじゃなかった事は確かである。






END







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