暗い夜道を彼女と歩く。
ひんやりとした冷たい空気が肌に刺さって、寒いと感じると何故かあがる肩。
「さみー……」
「もうすぐ四月なのにねー」
同じように肩をあげて、ダウンのポケットに手を突っ込む彼女。
「アイス食べたいなー」
そう呟く彼女の息が白くなって。それがさらに俺に寒さを感じさせる。
「え、嫌だ。さみー」
「寒い時の方が食べたくならない? 炬燵で温まってさー」
わかんねーよ。と言うと、彼女は口を尖らしてぶーぶー拗ねた。
彼女の鼻の頭や頬は紅く染まっていて、本当に寒そうだ。
それなのにアイスが食べたいなんて事を思う神経がわからない。
「あー」
「……どした?」
「見てみて!」
上を向く彼女のきらきら輝く瞳の視線の先を追うと、きらきら輝く無数の星。
あれ、星ってこんなに綺麗だったっけ。
「星すごいねー」
ついさっきまで拗ねていたくせに、もう笑っている。
それからずっと、上を向いてきらきら輝く星を見上げながら、進む彼女。
「きらきらしてんねー」
「そーだなー」
無数の数の星。それを見上げる俺と彼女の二人。
「あれがさそり座。」
「へー」
「……多分、ね」
多分、違うんだろうな。その言葉は口には出さずに飲み込んだ。
空を見上げているからふらふらと右や左に行ったり来たり。
そんな彼女は、見ているだけで不安。
「前見ないと危ねーよ」
「だーいじょーぶだって」
言ったそばから「わ!」との悲鳴と共に電柱に突進している。
「大丈夫じゃねーじゃん」
「いたいー」
彼女は、手のひらを額に当てつつ涙目で俺を見つめる。
ああもう。だから言ったのに。
「はい。ちゃんと前を向いて歩く!」
「ふぇーい」
気の抜けるような返事の後、今度は立ち止まって空を見上げる彼女。
俺が“前を向いて歩く”と言ったから、彼女は“上を向くいて立ち止まる”。
ああもう。仕方がない。
「手」
「て……?」
首を傾げる彼女に、右手を差し出す俺。彼女の左手を掴むとそのまま歩き出す。
「手引いてやるから、星見てていーよ」
二人してふっと目を細める。
彼女が笑うから、俺も笑う。
“あれ、星ってこんなに綺麗だったっけ。”さっきの疑問の答えが今わかった気がした。
彼女だからだ。彼女がいるからだ。彼女と見る星だからだ。
彼女が隣にいさえすれば、なにを見たって綺麗だと感じられるのだろう。
そう思う俺は、きっと彼女の事が好きすぎる。
エトワール
「明日も星見よーね」
「うん」
title:ひよこ屋
110327
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