ふわり、近くからか甘い匂いが鼻を掠めた。
横の彼を見るところころと口の中でチョコを転がしている。
右手には綺麗にラッピングされていただろう淡いピンク色の袋と赤いリボン。
その中には多分それを作った女の子の気持ちが沢山こもった手作りチョコ。
「それ美味しー?」
「んー」
うまいよー、と袋から取り出し口の中へまた一つ。
甘党な彼はチョコが大好物なわけで。それを貰って嬉しいわけで。好きなんだから食べるわけで。
バレンタインという日にチョコを渡した女の子の気持ちになんてちっとも気付いてないんだろうな、と思うと少し不憫。
だけど、それと同時にホッとしている自分もいたりして。
まだ誰の手にも渡っていない、あたしの鞄の中に隠れているピンク色の袋。それは、彼に渡すはずだったのだけど。
不格好にゴツゴツしたトリュフと呼ぶ事さえ申し訳ない位見た目が悪いそれ。
今、彼が食べているものは綺麗に丸くてお店に並んでいそうなトリュフであって。
渡せるわけないじゃん。そう心の中で、はあっと溜め息をつく。
「あ、もうない」
いつの間にそんなに食べたのか。袋をひっくり返しても落ちるのはココアの粉だけ。
「まだ食べたりない」
「呆れた。どんだけ食べたら気が済むの」
「え、一生?」
「アホ」
ししし、と笑って右手をあたしに差し出した彼。
「な、なによ?」
「えー、だから食べたりないんだって」
あーあ。バレバレだったのか、と。ピンク色の袋を手渡す。
「知らないからね、不味くても」
「んー。お前のだったら不味くても食べるよ?」
「は、な、なんで!?」
「えー、それ今聞く?」
彼は笑いながら、ぱくり、あたしの作ったチョコを口に入れる。
「ん、美味い」
「うそ!」
「食べてみる?」
「は……!?」
ちゅう、と唇が重なったと思いと甘いチョコの味が広がった。
チョコより甘いキスをして
title:確かに恋だった
110214
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