帰宅して玄関の足元に目をやると、綺麗に揃えられた男性用の靴が右端に存在していた。もちろん私の物ではなくて。だとすればこの靴の持ち主は一人しかいない。
一人でに私の心臓は踊る。だって彼に会うのは一週間ぶりなのだ。そわそわしつつ急いで部屋の奥へと足を進める。するとやはり我が物顔でソファに腰かけている男、世間で言う彼氏というものがいた。
会うのが久々ということもあって、今すぐ抱きつきたい衝動に駆られる。……が、そこで私は気が付いた。
彼の纏う空気が、とてつもなく悪いということに。
付き合ってきた期間は短いが、それくらいの感情はすぐさま察知できるくらいには敏感であるつもりだ。というよりは、彼が隠しもせず寧ろ気にしろとでも言うように不機嫌なので、私は眉間に深く刻まれたしわを見る前にその空気をを感じとっていたのだけれど。
しかし、たった今帰ってきたところで状況も理解していない私が彼のその不機嫌の理由を知るはずもなく、かける言葉が見つからないままリビングの扉の前で突っ立っているしかない現状。
すると、そんな私に気付いた彼が不機嫌な表情のまま口を開いた。
「スカート」
「え?」
スカートといえば今履いているこのスカートは最近買ったばかりのお気に入りだけれど。彼はそんなに私の洋服に興味があった印象はない。それに加えて今この状況で何故その単語が出てきたのかが不思議でしょうがない。だから聞き間違いかと思い、もう一度聞き返そうとした時。
「短すぎ脚出しすぎ。誘ってんのか、馬鹿野郎」
視線を上下と動かし下方、私の膝上くらいの位置で止まったところで彼の目は細められその視線はまた上がってきた。まるで学生時代に制服検査をされている時のような感覚で居心地が悪い。
「あと帰ってくるの遅い。今何時だと思ってんだよ。夜遅くに出歩いたら危ねぇだろうが」
彼の鋭い視線が私を貫く。けれど彼の視線の鋭さに反比例して、私の心はあたたかくなるのだ。だって、彼が不機嫌な理由はつまり一一
「心配してくれたんだね」
ピクリと彼の片方の眉が動いた。その後数秒私を睨みつけた後にわざとらしい盛大ななため息と共に立ち上がって私の方へと近づいてくる。
「なんかムカつく」
ふっと、薄い笑みを浮かべた彼の指が私の頬をつまんだ。眉間のしわはいつの間にかなくなっている。
「いひゃい」
「嘘つけ。力入れてねえよ」
彼の指は私の頬を離れずぷにぷにとさわり続ける。そういえば最近太ったから顔のお肉も増えているのかもしれない。
「今日はなに?サークルの飲み会だっけ?」
「うん」
「男もいたんだろ」
「うん」
面白くないと彼が拗ねる素振りを見せたから。腕を伸ばして首に巻き、その尖った唇に噛み付いた。
いま君を支配しようか
「私が他の男に目移りするとでも?」そう挑発するようニヤリと笑えば、彼は吃驚して見開いていた目を細め唇に舌を這わせてから弧を描く。
「お前は誰にも渡さねえよ」
そう紡ぐ唇が、私の上に降り注ぐ。
title:コランダム
130302
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