「わーすごい!」


イルミネーションを眺めてはしゃぐ彼女。当たり一面に広がる色とりどりのライトが彼女を照らし輝かせている。なんて、俺は彼女を中心に物事を見すぎているのかもしれない。

ゆるく巻いた髪、新しいワンピース、高めのヒール、濃いめのメイク。いつもと違う姿の彼女にいつにも増して心臓の動きが活発だ。


「綺麗だね」


振り返り笑顔を見せる彼女の方が綺麗だ、なんて口に出せやしないけど。俺もまた同様に「そうだね」と笑顔を浮かべた。

偽りの、笑顔。


「ねえねえ、あっちも見てみようよ!」


俺の腕を引っ張り一層人だかりの多い方へと向かう。その声色もテンションも笑顔も、輝いているのに俺にはそれら全てに悲しみが表れているように見えて。


“そんなカオで笑わないで。”
“無理して笑顔をつくらないで。”


そう言ってしまいたくなるのに。

偽りでも俺にだけ向けられる笑顔に不覚にも嬉しくなって、彼女と二人でいられる時間を壊したくなくて、アイツの為にお洒落した彼女にドキドキして。

俺はなんの言葉もかけられない。

だから、イルミネーションを眺める彼女の目から今にも涙がこぼれ落ちそうになっているのに、気づかないフリ。


「すごく綺麗だね」


そう誰に言うわけでもなく、小さな声で呟く彼女。

本当だったなら、彼女の隣にはアイツがいて、彼女が笑いかけるのはアイツで、それに答えるのもアイツで、二人は心からの笑顔でイルミネーションを眺めていたことだろう。

でも現実はそうじゃなくて。現に彼女は泣きそうで。


“俺なら泣かせないよ”


たったそれだけを言う勇気が出ない俺と、それを利用する彼女。



卑怯者はどっちだ



突然鳴りだした携帯電話の画面をみて彼女の表情はパアッと明るくなった。アイツからのメールだろう。彼女は申し訳なさそうに俺を見上げる。


「はやく行きなよ」

「……ごめんね」

「いいよ、ちゃんと仲直りしな」


大きくうなづいた彼女のカオは、今日見た中で一番の笑顔だった。





title:Aコース



130121


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